2002 Fiscal Year Annual Research Report
ヘリコバクター・ピロリの粘膜感染機構における分子基盤の確立
Project/Area Number |
14704026
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 敏彦 東京大学, 医科学研究所, 講師 (10292848)
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Keywords | ヘリコバクター・ピロリ / エフェクター / チロシンリン酸化 / 細胞増殖 / 分泌機構 |
Research Abstract |
ヘリコバクター・ピロリは、ヒトにおいて胃粘膜に持続感染を引き起こす病原細菌である。本菌による感染が慢性消化性潰瘍や胃粘膜上皮過形成あるいはそれに起因するMALTリンパ腫等の発癌に深く関係すること示唆されているが、その粘膜感染機構は今だわかっていない。本菌が上皮細胞に感染することにより、タイプIV型分泌装置と考えられる遺伝子産物に依存してCagA蛋白が宿主上皮細胞へ分泌されチロシンリン酸化されるとともに上皮細胞の運動および増殖に促進すること(スキャッタリングと呼ばれる)、またCagAの分泌とは別に上皮細胞のIL-8の産生が誘導されることが報告されている。しかし現時点で、これらの分子機構はもとより実際の感染における粘膜炎症反応にどのように関わっているのか全くわかっていない。そこで本研究ではCagAの機能とIL-8誘導能に焦点を絞り、次の研究を企図した。(1)CagAのリン酸化が上皮細胞の運動・増殖能に必須かどうか解析し、さらにCagAの宿主細胞標的分子を同定し、その機能を明らかにする。(2)ヘリコバクター・ピロリ由来のIL-8誘導分子の同定とそのメカニズムを明らかにする。 平成14年度の成果 (1)CagAタンパク質PY領域内のEPIYAくり返し配列に存在するチロシンをフェニルアラニンに置換した変異体を用いた実験から、CagAによる形態変化誘導能にはPY領域が必要であるが、そのチロシンリン酸化は必須ではないことが示唆された。In vitroおよびin vivoにおいて、CagAはPY領域を介して宿主のアダプタータンパク質Grb2と会合した。Grb2はSos(Son of sevenless)を介してRas/MEK(MAPKK)/ERK(MAPK)カスケードを活性化することが知られている。Sosとの結合能を欠失したGrb2変異体を過剰発現させた細胞においては、CagAによる形態変化が誘導されなかったことから、CagAによるGrb2の集積は細胞形態変化に機能的に重要であることが示唆された。また、MEK特異的阻害剤を用いた実験から、MEKの活性化がCagAの形態変化誘導能に重要であることが示唆された。以上の結果から、CagAはGrb2と結合することによってMEK/ERK経路を活性化して、細胞の形態変化を誘導することが示唆された。 (2)(1)に関連して、感染上皮細胞におけるリン酸化CagAとタイプIV型分泌装置を形成する蛋白が同じ部位に局在することを見い出した。さらに複数の抗体を用いた免疫蛍光染色および電子顕微鏡による免疫コロイド染色による解析の結果、菌の表層から伸長するフィラメント状の構造物がタイプIV型分泌装置であることを明らかにした。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Mimuro et al.: "Grb2 is a key mediator of helicobacter pylori CagA protein activities"Molecular Cell. 10・4. 745-755 (2002)
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[Publications] Tanaka et al.: "Structural definition on the surface of Helicobactor pylori type IV secretion apparatus"Cellular Microbiology. (in press). (2003)