2002 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリア翻訳系の機能異常に起因する疾患の分子機構
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14704066
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 勉 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 講師 (20292782)
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Keywords | ミトコンドリア / tRNA / RNA修飾 / MELAS |
Research Abstract |
本研究は、ミトコンドリア翻訳系の異常に起因する疾患に着目し、その分子機構を解明することを目的とした。我々はこれまでに、MELAS、MERRFなどミトコンドリア脳筋症由来のミトコンドリアtRNAに、コドン解読に重要なアンチコドン1字目の新規のtRNAタウリン修飾が欠損するという現象を見出している。MELASに関しては3243位と3271位の点変異の位置の違いによってtRNA^<Leu(UUR)>の翻訳活性が変化する現象が観測されたことから、MELAS由来tRNA^<Leu(UUR)>は点変異の効果と修飾欠損の効果が独立に影響して翻訳活性の低下を引き起こしていると考えられる。点変異をもたず、他の修飾はそのままでwobble位の修飾のみを欠損したtRNAを構築することができれば病的な点変異の影響と修飾欠損の影響を独立に評価することが可能になる。そのためヒトの胎盤57個から大量にミトコンドリアtRNA^<Leu(UUR)>を精製し、分子整形術を用いて、wobble位の5-タウリノメチルウリジンのみを未修飾ウリジンに改変し、点変異のないタウリン修飾の欠損tRNAを作成することに成功した。そしてミトコンドリア試験管内翻訳系でこの改変型tRNAのタンパク質合成活性を測定したところ、この改変型tRNAは対応する2つのコドン(UUA、UUG)のうちUUGコドンのみを翻訳できないことを明らかにした。これは、アンチコドン1字目-コドン3字目の対合がU-Gのwobble対のときに、wobble位の修飾がないと安定な対合ができないためと考えられる。さらにリボソーム上のコドン認識の場であるAサイトにおけるコドン結合能を測定したところ、改変型tRNAは予想通りUUGコドンに結合できないことがわかった。したがって、MELAS変異tRNAの翻訳能の低下は主にwobble位修飾欠損による影響であり、特にUUGコドンが翻訳できないということが判明した。さらに、3243変異は3271変異に比べてUUAコドンの翻訳能が低いことが判明し、点変異による翻訳活性の違いも明確になった。これらの知見は、MELASの変異tRNAにおける修飾欠損単独の影響を初めて明らかにし、それが病気発症の第一義的原因であることを証明した。この知見は更に、ミトコンドリアDNAにコードされるタンパク質のうちUUGコドンの使用頻度が圧倒的に多い呼吸鎖酵素複合体IのサブユニットND6の欠損を示唆し、長年分子レベルの理由が不明であった複合体I活性の低下というMELAS患者の生化学的特徴を説明できる。これらの知見はRNA修飾の異常が疾患の原因になりうることを分子レベルで詳細に解析した初めての例であり、疾患の要因としてタンパク質以外に機能性RNAにも注目する必要があることを意味する。
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Research Products
(9 results)
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[Publications] Suzuki, T., Suzuki.T.^*, Wada, T., Saigo, K., Watanabe, K.: "Taurine as a constituent of mitochondrial tRNAs : New insights into the functions of taurine and human mitochondrial diseases"EMBO Journal. 21. 6581-6589 (2002)
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[Publications] Kaneko, T., Suzuki, T., Kapushoc, S.T., Rubio, M.A., Ghazvini, J., Watanabe, K., Simpson, L., Suzuki, T.^*: "Wobble modification differences and subcellular localization of tRNAs in Leishmania tarentolae : implication for tRNA sorting mechanism"EMBO Journal. 22. 657-667 (2003)
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[Publications] Tomari, Y., Hino, N., Nagaike, T., Suzuki, T.^*, Ueda, T.: "Decreased CCA-addition of human mitochondrial tRNAs bearing pathogenic A4317G or A10044G mutation"J.Biol.Chem.. 278(In press). (2003)
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[Publications] Toompun, M., Yasukawa, T., Suzuki, T., Hakkinen, T., Spelbrink, J.N., Watanabe, K., Jacobs, H.T.: "The 7472insC mitochondrial DNA mutation impairs the synthesis and extent of aminoacylation of tRNA^<Ser>(UCN) but not its structure or rate of turnover"J.Biol.Chem.. 277. 22240-22250 (2002)
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[Publications] Shigi, N., Suzuki, T., Tamakoshi, M., Oshima, T., Watanabe, K.: "The conserved bases in TΨC loop of tRNA are determinants for Thermophile-specific 2-thiolation of U54"J.Biol.Chem.. 277. 39128-39135 (2002)
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[Publications] Cho, H.D., Tomita, K., Suzuki, T., Weiner, A.M.: "U2 snRNA is a substrate for the CCA-adding enzyme (tRNA nucleotidyltransferase)"J.Biol.Chem.. 277. 3447-3455 (2002)
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[Publications] Yasukawa, T., Suzuki, T., Ohta, S., Watanabe, K.: "Wobble modification defect suppresses translational activity of tRNAs with MELAS an MERRF mutations"Mitochondrion. 2. 129-141 (2002)
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[Publications] 渡辺公綱, 大槻高史, 鈴木 勉: "ミトコンドリアの翻訳システム"蛋白質 核酸 酵素,(3月増刊号)「RNAの細胞生物学」共立出版. 365-374 (2003)
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[Publications] 鈴木 勉: "リボソーム(ribosome is ribozyme)(第6章)"わかる実験医学シリーズ「RNAがわかる」羊土社(印刷中). (2003)