2002 Fiscal Year Annual Research Report
「福祉」の実際的活動の基底にある「ケア」の考え方に関する倫理学的考究
Project/Area Number |
14710015
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Research Institution | Chubu Gakuin University |
Principal Investigator |
新 茂之 中部学院大学, 人間福祉学部, 講師 (80343648)
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Keywords | ケア / 主観性 / 他者との係わり合い / 関係の動態性 / 主観性の動態的形成 / 可能性 / 当為 / 実成性 |
Research Abstract |
今年度の目標は、「福祉」の論理的意味を明らかにすることである。「福祉」は、ケアの営みであるといってもよく、「福祉」を成立させている倫理的地平は、ケアという概念に関する倫理的考察によって闡明される。その考察の先駆者であるミルトン・メイヤロフの主著On Caringとネル・ノディングズの主著Caring : A Feminine Approach to Ethics & Moral Educationに関する文献実証的な考察に基づけば、ケアの営みは、ケアするひととケアされるひとの主観的次元で成立する係わり合いである。すると、「福祉」の論理的基盤は、倫理に関する客観的条件には求められなくなる。しかも、ノディングズに従えば、倫理を最終的に基礎づけるのは、普遍的規範や定言命法ではなく、主体の個人的な思いである。それでは、主観的行為としてのケアがどうしてほかのひとたちから承認されたり、賞賛されたりするのか。私秘的領域だけで通用する主観性の妥当性は、ケアの営みにあっては、他者との関係の構築と維持という、共同性を動態的に形成する過程のなかでしか保証されない。すなわち、ケアの営みにおける客観性は、主観的事象から離れて自存しているような事態ではなく、主観性から構築される関係の動態性であると言わねばならないのである。 しかし、それでは、倫理に客観的保証がないとすれば、倫理の中心である当為は、どのようにして基礎づけられるのか。当為に関しては、いわゆる自然主義的誤謬の問題があるが、その問題は、当為を事実と同じ次元で議論するところに難点がある。ケアの倫理学においては、当為は将来に対する見通しから導来する。将来は可能的世界に帰属する事柄であるから、ケアにおける当為とは、共同性の動態的形成に関わる実成的可能性において成立しているのである。
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