2002 Fiscal Year Annual Research Report
ディドロと十八世紀フランス啓蒙思想の人間論における「自然史」の概念の役割
Project/Area Number |
14710020
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
井田 尚 法政大学, 第一教養部, 講師 (10339517)
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Keywords | 十八世紀 / 啓蒙思想 / 自然史 / ディドロ / ルソー / 学問芸術論 / 重商主義 / 重農主義 |
Research Abstract |
今年度の研究では、啓蒙思想の逆説的な対抗理論であるルソー『学問芸術論』の学芸批判、文明批判の言説に答える形で、百科全書派のダランベールとディドロがいかに啓蒙主義の立場から自分達の「学問芸術論」を構築していったかを検証した。その結果、ダランベール、ディドロが好奇心などの「精神的欲求」を「身体的欲求」と対等な人間の本性とみなすことでルソーが『学問芸術論』で行った医学や農業などの「有用な知識」と学芸などの「楽しい知識」の区別を解消し、学問と技芸の発展を人間による創意工夫と自然の探求の成果として評価していること、そして、文明社会で「有用な知識」を担う産業の実体をめぐって農業をモデルとするルソーと手工業をモデルとするディドロが経済論のレベルで鋭い対立を見せていることが明らかになった。 さらに、『学問芸術論』と『百科全書』第1巻が相次いで刊行された1750年から1751年の時期に学問芸術論を媒介に明確化したこのルソーとディドロの経済論的な対立を裏付けるために、『百科全書』(1751〜1765)から1760年代の重農主義への傾斜、『ガリアーニ神父擁護』(1770)の重農主義批判に至るディドロの経済論の展開を辿った。この作業から、1751年から1770年の期間においてディドロがほぼ一貫して手工業を主、農業を従とする重商主義的な経済理論、より厳密には、農業と工業の分業および工業を主、農業を従とする産業発展を人類に普遍的に妥当する自然史的な歴史過程として見るヒュームに近い農工分業論にもとづく改良型重商主義を支持していたこと、ディドロが1760年代に一時的な接近を見せながらも最終的には重農主義と訣別するに至った伏線が1751年の段階の学問芸術論をめぐるルソーとの対立に論理的な必然として準備されていたことを確認できた。
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Research Products
(1 results)