2002 Fiscal Year Annual Research Report
ルネサンスの家庭生活におけるイメージの位相研究―ロレンツォ・ロットの芸術を例に―
Project/Area Number |
14710032
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
水野 千依 京都造形芸術大学, 芸術学部, 助教授 (40330055)
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Keywords | イタリア・ルネサンス / 宗教改革 / ロレンツォ・ロット / エクス・ヴォート / 幻視とイメージ |
Research Abstract |
研究対象とするロレンツォ・ロットのスアルディ家礼拝堂装飾(ベルガモ近郊)が制作された16世紀前半に、この地域にどのような宗教・政治的状況をめぐる図像が流通し、その伝達経路がどのようなものであったかを探るために現地に趣き、印刷本挿絵から絵画作品までのさまざまなレベルの図像を収集した.木版一枚刷りチラシは残存例がきわめて稀少であったが、印刷本挿絵についてはかなりの収穫を得た。とくに注目したのは、この時期に第二の世界洪水が起こるとして流布した占星術的預言や、同時期にベルガモで起こったとされる「戦士たちの幻視」の言説である。ロットの作品とも深く関わるこれらの言説が、個人的な書簡、印刷本、教皇勅書、口承、大道演歌師による朗誦など、多様な伝達形態によって循環していく様を追求し、政治的プロパガンダへと練り上げられていく過程を探った.この言説は、当時のカトリックに対するトルコや宗教改革派の脅威を印象づける公式プロパガンダとして読み変えられていくまでに実に様々な文化的要素を吸収していったことが浮彫にされた.そこで今後は、図像レベルでの預言や幻視の伝達を追い、そのなかでロットの絵画作品の位相を捉えなおしたいと考えている。 また、戦禍や疫病、宗教改革などに翻弄されたこの地域の人かの心性と深く関わる「病」「死」に纏わるイメージとしてエクス・ヴォート(身体器官を象ったものから全身像まで)に注目し、とりわけ珍しい作例が残るマントヴァの奉納像を取り上げ、論文として発表した。これは直接ロットの作品と関わるものではないが、像を媒介としたルネサンス期の人々の生と死にまつわる慣習のなかに、古代異教の慣習の残存・と変容を垣間見ると同時に、そこにもなお、異教/キリスト教、高い文化/低い文化、美/醜、文化(宗教)/迷信、図像魔術/魔除け…といった境界が互いに侵犯しあうダイナミックな往還の様を認めることができた。
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Research Products
(2 results)