Research Abstract |
人間が外界を理解する上で,視覚情報を一時的に保持し,後の判断等に利用できることは,日常生活を恙無く過ごすためにも重要な認知的能力の一つである.本研究の目的は,この視覚短期記憶機構の加齢変容を解明することであり,平成14年度の到達点は,健常若年者を対象に,視覚短期記憶機構の基礎的なメカニズムを明らかにすることである. まず,先行研究に準拠して,物体性の視覚短期記憶機構に関する実験を実施した.その結果より,若年者が一次的に保持できる物体情報は,色や形状といった視覚特徴というよりも,それら特徴が結合された物体であり,またその記憶の容量は4個程度と推定された.以上の結果は概ね先行研究と一致するものであった.しかし,視覚特徴のみの保持の方が,物体全体の保持よりも若干記憶成績が良く,このことから視覚特徴を結合する際に視覚短期記憶容量が消費されている可能性が伺われた. 続いて,物体性実験と準拠した手法を用いて,空間性の視覚短期記憶機構に関する実験を実施した.空間性記憶の単位としては空間位置と空間関係を候補とした.空間位置とは,各物体が占める空間的位置の情報であり,空間関係は各位置にどのような特徴を有した物体が存在しているのか,という物体と位置との関係情報である.実験結果より,空間位置についてはほぼ全ての情報を一次的に保持できるが,空間関係については,物体性記憶と同様に,その容量は4個程度と推定された. 最後に,視覚短期記憶機構と比較するという観点から,言語短期記憶機構を検討した.言語性記憶については,計算をしつつ数字を記憶していくという手法(計算スパン課題と呼ばれる手法)を採用し,検討を行ったところ,一時的に保持できる言語情報(数字)の容量は5個程度と推定された.このことから,視覚短期記憶機構と言語短期記憶機構とに違いのあることが示唆された.
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