Research Abstract |
作動記憶は,さまざまな認知課題の遂行時に,一時的に情報を保持する機能・それを支える機構であり,現在,種々の記憶現象や認知心理学における諸概念,発達や加齢における認知機能の変化を説明するための重要なキーワードとなっている。この作動記憶の働きを測定するために"作動記憶スパン課題"が考案され,頻繁に用いられている。本研究では,本年度,作動記憶スパン課題におけるリスト構造を実験変数とし,5つの実験を実施した。長い文が最初に提示され短い文が最後に提示される"長短条件"と,その逆の順序の"短長条件"の2つの条件は,リスト全体の文の処理量と記銘単語はまったく同じであるが,得られるスパン得点は,短長条件よりも長短条件で高いことが知られている.このリスト構造効果は,タスクスイッチング仮説の支持証拠となっている。タスクスイッチング仮説によると,短長条件の記銘単語が,長短条件のものよりもリスト内で時間的な遅延にさらされることがリスト構造効果の生起原因である。しかし,2つの条件は,リスト後半部の文の読みに要する時間だけでなく,文の処理量も変化しており,これら2つの要因が交絡している。本研究では,文の読みに要する時間と処理量を独立に操作するため,刺激文をいくつかの部分に分け,順に少しずつ提示するという実験方法を用いた。この方法により,文の長短にかかわらず,一定の読み時間が必要となるように文の読み速度を操作することが可能となり次のことが発見された。(1)処理量の異なる文(長い文と短い文)の読み時間を等しくしても,リスト構造効果は生起した。(2)文の読み時間を変化させても,文の処理量が同じであれば(同等の音節数の文),リスト構造効果は生起しなかった。これらの結果に基づき,作動記憶スパン課題の成績には,リスト内の時間要因ではなく,干渉効果が影響を与えているという可能性が検討された。
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