Research Abstract |
本年度は,研究者の勤務先移動にともない,昨年度まで観察協力を得ていたフィールドでのデータ収集が不可能となった.このため今年度は,あらたな観察フィールドの開拓と協力先とのラポールの形成を行うこととし,予定していたデータ収集は来年度に行う事となった. 今年度は,1.昨年度の観察データの簡単な分析,2.心理学・教育学の専門家,幼児教育の現場の教師などから,「ほめる」行為の実態や「ほめる」ことへの考え方について一般的な観点からの情報収集,3.「ほめる」ことに関する先行研究の調査,を行った. その結果,まず「ほめる」ことに対して,専門領域でも一般的な観点からも,子どもが望ましい行為をした時に与える「強化子」や「インセンティブ」であるとする考え方が強い事が判明した.つまり,「ほめる」は「しかる」と対になって,社会化の過程における「しつけ」の方法の一種でり,子どもの行動を大人がコントロールするための手段であると考えられているようである.このため,子どもを「ほめる」事はいいことだと考えている一方で,「ほめないと子どもはやらなくなるから,ほめすぎない方がいいのではないか」という言説につながっていると考えられる.実際の行動としても,昨年度の観察データの分析から,幼稚園の活動における教師から子どもへの声掛け中で,「ほめる」内容の割合が低いことが判明した. しかし,「ほめる」行為には,子どもの行動のコントロールという手段的な側面の他に,子どもの行為や存在そのものを承認するという,j情緒的な側面も合わせ持っていると考えられる.子どもの側から見た場合,この情緒的な側面の影響は,動機づけの育成へポジティブな影響を与えるものと推測できる.2つの「ほめる」行為の機能を区別し,子どもの動機づけへの影響を検証する必要があることが指摘された. なお,本年度の「ほめる」ことの先行研究の展望と整理は,「乳幼児期における目標志向性の形成と社会的承認の影響」(2003年,心理学評論 vol46,No.1)の一部に反映させた.
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