2003 Fiscal Year Annual Research Report
シベリア先住民社会における民俗環境知識の政治生態学的研究
Project/Area Number |
14710215
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高倉 浩樹 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教授 (00305400)
|
Keywords | シベリア / 先住民 / 民俗知識(IK) / 牧畜 / ヤクーチア / 家畜管理 |
Research Abstract |
本研究は、シベリア・ヤクーチア地域の先住民社会を対象とし、歴史的・政治経済的条件のなかで、先住民の民俗環境知識の生成メカニズムの解明を目的としている。2003年度夏期において行われた現地調査においては、近代化された牧畜に従事する牧夫と彼らを技術・知識面で支える畜産学関係者双方に対して、その具体的な関わりがいかなるものであるかについての聞き取り調査を行った。ソ連時代の集団化以降、農業をはじめ畜産についても現地の農学研究者が政策決定及び生産現場といったさまざまなレベルで提言を行うようになっている。興味深いのは、現在の牧夫達にとって家畜管理及び牧草地管理に関わる科学的知識と自らの経験的知識をより積極的統合させていることである。これは、ソ連時代に確立された「職業的牧夫」を民族誌的に理解する上で、きわめて重要な視座になると思われる。今後はヤクーチア農村部及び放牧地において、畜産学的知識がどのような形で流入するのかその社会的メカニズムを明らかにするともに、むしろ牧夫の個人史に焦点をあて、そうした科学的知識がいかに個人レベルで受容されているのか具体的に資料を収集し、検討を加えていきたい。 主たる成果は、昨年度において中心的におこなった家畜委託と社会経済的変動の関連性について論考を完成し、出版したことである。これは、家畜に最も頻繁に接する牧夫以外の、非牧民のサハ人にとって家畜がどのような存在であるのかその文化的価値および社会経済的位置づけを明らかにすることにつながっている。またこうしたサハの牧畜・畜産に関わる民族学的研究の研究史についても一定の論考をおこなった。さらにより広い意味でサハ人のアイデンティティを理解するためのソ連・ロシアの民族に関わる法規範・制度を明らかにし彼らのエスニシティが発現する制度的背景を解明した。
|
-
[Publications] 高倉 浩樹: "サハ社会における馬飼育と不在家畜所有-ポスト社会主義下における家畜委託関係と社会経済的変動の諸相"中央ユーラシアにおける民族文化と歴史像(黒田卓・高倉浩樹・塩谷昌史編)仙台:東北大学東北アジア研究センター. 187-227 (2003)
-
[Publications] Takakura, Hiroki: "Horse Husbandry and absentee livestock ownership in the Sakha : Horse trust relationship and the current socioeconomic transitions"Northeast Asian Studies Series, (H.Takakura ed., Indigenous Ecological Practices and Cultural Traditions in Yakutia). 6. 127-148 (2003)
-
[Publications] 高倉 浩樹: "ソ連及びロシア憲法にみられる民族の法的範疇と人類学的解釈-ソビエト人民・民族・民族体"国立民族学博物館調査報告(SER):少数民族と法制度に関する比較. (印刷中).
-
[Publications] 黒田卓, 高倉浩樹, 塩谷昌史(編): "中央ユーラシアの民族文化と歴史像"東北大学東北アジア研究センター. 225 (2003)
-
[Publications] Takakura, Hiroki (ed.): "Indigenous Ecological Practices and Cultural Traditions in Yakutia (Northeast Asian Studies Series 6)"Centre for Northeast Asian Studies, Tohoku University. 150 (2003)