2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14710251
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
丸橋 充拓 島根大学, 法文学部, 助教授 (10325029)
|
Keywords | 唐宋変革 / 軍隊観の変化 / 古典的身分制軍隊 / 犒労儀礼 |
Research Abstract |
本年度は基本作業として、高級官僚や下級武官たちがいかなる軍隊観を持っていたかにつき、詩文集・墓誌銘等より調査を進める予定であったが、その過程で、より大きな問題として国家が軍隊をどのように見ていたのかを分析する必要を感じため、その好適な素材として「軍事儀礼」というものに焦点を移して検討を行った。 その成果は現段階では論考化していないが、これまでの検討からおおよそ次のような見通しを得た。唐代前半の府兵制(兵役制度)期には、講武・田猟・射礼等、儒教経典にのっとった軍事儀礼が定例化していた。こうした儀礼には、参列者の席次や所定の挙惜の中に古典的身分関係が投影されている。また府兵制は兵役従事者に対し、授勲を通じて支配身分「士」となることを認める制度である。よって府兵制は、「古典的身分制軍隊」と称しうるだろう。 ところが唐代後半以降、募兵制(傭兵制度)が一般化すると、軍事労働力の提供に対しては、身分に代わって給与が与えられることとなった。そしてこのことは儀礼のありようにも影響を与える。被雇用者が雇用主たる個々の将師に対して給与支給への謝意を表する「犒労儀礼」が盛んに行われるようになったのである。そして、兵員の雇用主体が皇帝に一元化される宋代になると、犒労儀礼における謝思の対象も皇帝に集約されることになる。つまり募兵制軍隊は皇帝と兵員個々人との間で交わされる「扶養【double arrow】謝思」関係という、きわめて個別的・功利的なイデオロギーに支えられていたのである。募兵制下の軍隊が「天子の私兵」と称される所以はここにあり、古典的体系性に彩られた府兵制との違いを見て取ることができよう。
|