2002 Fiscal Year Annual Research Report
自由貿易体制期におけるイギリス資本主義とトルコ市場
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14710262
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
武田 元有 鳥取大学, 教育地域科学部, 講師 (40283965)
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Keywords | イギリス / トルコ / 自由貿易 / 通商条約 / 黒海 / ルーマニア |
Research Abstract |
本年度はイギリス産業資本のトルコ市場進出にしめる1838年英土通商条約の位置把握を課題として各種文献・史料の収集・分析を進め、その成果として二本の論文を執筆・発表した。 まず「イギリス自由貿易運動とトルコ保全政策-1838年英土通商条約の経済的・戦略的背景-」(『西洋史研究』新輯第31号2002年)では、当該条約が専らイギリス産業資本の工業製品輸出利害を背景に締結されたと見る古典的解釈を一次史料に則して批判的に検証しつつ、当該条約がむしろイギリス産業資本の一次産品輸入利害とイギリス外務官僚のトルコ領土保全政策との対抗・妥協を背景に締結されたとの見解を示し、以下の結論を得た。まずイギリス産業資本の経済利害については、当該期のトルコ市場論争の焦点がイギリス工業製品の輸出そのものにあったのではなく、むしろトルコ政府の輸出規制とイギリス政府の保護貿易とによって阻害されるトルコ一次産品の輸入にあったこと。またイギリス外務官僚の戦略利害については、当該期のロシア南下政策に伴うインド通商路開発の危機を背景として、トルコ保全政策の課題はトルコ関税税率の引上による対露軍事財政の確立にあったこと。以上の経済・外交利害はトルコ対外関税の緩和・強化をめぐり激しく対立するが、最終的にトルコ専売制度の廃止による一次産品輸出の解禁とトルコ関税税率の引上による収入関税の確保とをもって両者の妥協が図られたこと、以上である。 また「オスマン帝国の黒海穀物貿易独占とモルダヴィア・ワラキア(上)」(『鳥取大学教育地域科学部紀要』〔地域研究〕第4巻第2号2003年)は、1838年英土通商条約による輸出解禁の効果がとりわけルーマニア両国(モルダヴィア・ワラキア)の対英穀物輸出に体現されるとの見解からまとめた試論であり、なお未完であるが、当面の結論として、18世紀以前におけるオスマン帝国経済の基盤が黒海貿易を媒介とするルーマニア穀物の独占輸入にあったこと、したがって1838年条約による黒海穀物貿易独占の放棄と西欧市場向け輸出の解禁こそは世界帝国としてのオスマン帝国の解体とその世界市場への編入の最終段階をなすこと、を示した。
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Research Products
(2 results)