2003 Fiscal Year Annual Research Report
自由貿易体制期におけるイギリス資本主義とトルコ市場
Project/Area Number |
14710262
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
武田 元有 鳥取大学, 教育地域科学部, 講師 (40283965)
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Keywords | イギリス / トルコ / 通商条約 / ロシア / ルーマニア / 黒海 |
Research Abstract |
本年度はイギリス産業資本のトルコ市場進出にしめるルーマニア穀物市場の位置把握を課題として各種文献の収集・分析を進め、その直接・間接の成果として二本の論文を執筆・発表した。 まず「オスマン帝国の黒海穀物貿易独占とモルダヴィア・ワラキア(下)」(『鳥取大学教育地域科学部紀要』〔地域研究〕第5巻第1号2003年)は、1838年英土通商条約による輸出解禁の効果がとりわけルーマニア両国(モルダヴィア・ワラキア)の対英穀物輸出に体現されるとの見解からまとめた前年度の試論の完結編であり、オスマン帝国経済の基盤たる黒海経由ルーマニア穀物貿易の独占体制がロシア南下政策に伴う黒海貿易の開放によって解体したことを結論として提示するとともに、この事実が後にイギリス向け穀物輸出をめぐるロシア南部黒土地帯とルーマニア穀倉地帯との鋭い対抗関係を生み、これが最終的にクリミア戦争を準備するとの展望を提示した。 また「19世紀後半におけるトルコ資本輸入と負債償還体制」(『西洋史研究』新輯第32号2003年)では、このクリミア戦争を契機として旧来のイギリス産業資本のトルコ通商利害に加えて新たにイギリス銀行資本のトルコ投資利害が発生し、これに伴いイギリス政府のトルコ外交政策の基軸は次第に市場開放政策から債券回収政策へと移行すること、この債権回収機構を媒介として新興のフランス・ドイツ金融資本のトルコ投資活動が進行すること、以上の概略を提示するとともに、トルコ資本輸入の規定要因として、対外的にはロシア南下政策に伴う輸出向け穀物生産地帯=ルーマニアの喪失、これによる貿易収支赤字の定置と国際収支危機の進行、国内的にはやはりロシア南下政策に対抗するべき軍事財政の膨張と財政赤字の定置、が作用している事実を指摘した。 以上の如き分析により、イギリス産業・銀行資本のトルコ市場進出を把握するには、黒海経由でイギリス向け穀物輸出をめざすロシア南部農業の動向に留意する必要のあることが判明した。
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Research Products
(2 results)