2002 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリス警察の社会史研究―「地域」の視点から―
Project/Area Number |
14710267
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
林田 敏子 摂南大学, 国際言語文化学部, 講師 (10340853)
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Keywords | イギリス / 歴史 / 警察 / ロンドン港 / パトリック・カフーン |
Research Abstract |
複数の管轄権が交錯する場としての「地域」という観点から、18、19世紀転換期のロンドン港に着目し、近代警察誕生前夜の治安維持問題について、考察を、試みた。まず、ロンドン港に何らかの権限(ないしは排他的特権)を有する複数の当局に関する行政史料を、国内外で幅広く収集し、分析を行なった。特権を有していながらも、何百年もそれを行使していない当局があるなど、法律および制度のみに着目していてはその「実態」がつかめないことも判明した。今後は、裁判史料なども用いながら、実際におこった当局間の「衝突」(1829年の首都警察創設をめぐる争いなど)に焦点をあてて、考察を深めていきたいと考えている。 さらに、問題を多角的にとらえるため、ロンドン港を商業・税制・治安維持問題が交錯する「壮大な実験場」と称した人物、パトリック・カフーンの言説についても詳細な分析を試みた。パトリック・カフーンは、イギリス近代史に、様々な形で姿を現す(主に、統計学者・警察改革者として)にも関わらず、いずれの捉え方も一面的で、彼の活動(ないしは思想)の全容を総合的に評価する試みは未だなされていない。スコットランド生まれの一商人が、アメリカ経験(商人として)、ロンドンヘの移住と社会的上層(治安判事として)を経て、独自のポリス概念を生み出すまでの過程を、彼の著書やパンフレット・議会文書・書簡(複数の有力政治家や思想的に大きな影響を受けたジェレミ・ベンサムなど)といった複数の史料を用いて明らかにした。アダム・スミスやジェレミ・ベンサムの影響を受けながらも、独自のポリス概念に基づき、ロンドン港に「あらゆる社会問題を解決するためのシステム」を導入しようとした彼の生涯について、現在、「パトリック・カフーンとその時代-「壮大な実験場としてのロンドン港」(仮題)と題した論文を執筆中である。
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