2003 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀後半における自然科学研究の動向と英米ポストモダン小説との関係
Project/Area Number |
14710332
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木原 善彦 大阪大学, 言語文化部, 助教授 (60299120)
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Keywords | ポストモダン小説 / 現代科学 / トマス・ピンチョン / ウィリアム・ギャディス / ドン・デリーロ / 現代アメリカ文学 |
Research Abstract |
もっぱら基本資料の収集および整理を行い研究の全体像を絞り込んだ昨年度に引き続き、本年度は現代の科学技術と大衆文化との関連について研究を深めた。 第二次世界大戦後の科学技術に対する大衆のイメージは、70年代を境として大きく転換した。これは、端的に言うなら原子の「核」の時代から細胞の「核」の時代への転換、つまり原子力の時代からバイオテクノロジーの時代への転換だった。社会学者M・フーコーが近代の権力を(以前の「殺す」権力との対比において)「生かす」権力として特徴付けたのにならうなら、第二次世界大戦後の巨大科学技術は、70年代までの「殺す」科学技術から「生かす」科学技術に変貌したのだと言える。 大衆文化はこうした科学技術の変容を端的に反映している。その一端が見られるのが、1947年にアメリカ合衆国で生まれた空飛ぶ円盤伝説である。初期のUFOに反映されているのは核兵器の悪夢のフラッシュバックである。また、70年ごろまでの宇宙人像は、いわば「殺す」科学技術を知った上でそれを超越した理想的な先進文明を持ったものとしてイメージされていたのに対し、以後のエイリアンは人間を操り、またはモニターする、いわば人間を家畜として「生かす」科学技術を持った存在としてイメージされた。現代の科学技術に対する大衆のイメージの変遷は同時代的な社会の権力構造の変質とも呼応しあっているが、思想家G・ドゥルーズらが「規律社会」から「管理社会」への変化ととらえたこの変化自体も飛躍的なコンピュータ技術の進歩によって支えられたものである。 本年度は、以上のように、少し視野を広げて文学作品以外の大衆文化と現代科学技術とのかかわりを見たが、「科学技術→社会→(大衆)文化」という方向の影響関係は文学の領域においても重要な形で見られるはずであり、来年度はその分析の精密化を試みる予定である。
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Research Products
(1 results)