2002 Fiscal Year Annual Research Report
メディアとしてのコンピュータが拓く「テクスト」の新しい可能性
Project/Area Number |
14710356
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
明星 聖子 埼玉大学, 教養学部, 助教授 (90312909)
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Keywords | 文献学 / 編集 / テクスト / 画像 |
Research Abstract |
今年度の研究は、コンピュータ画面上で提示される文学テクストとはどうあるべきかを探りながら、世界各地の文献学的編集の現状を検討し直すという作業を中心におこなってきた。この作業の過程で明らかになったのは、いわゆるコンピュータ文献学と呼ばれる分野における目下の議論の焦点は、文学作品をテクストとしてデータ化していくのか、あるいは画像としてデータ化していくのかという問題だということである。従来は、テクストデータ化が当然とされ、そのデータの標準的なコーディングフォーマットであるTEI(Text Encoding Initiative)のメンテナンスに関することが、この分野の最大の課題であった。ところが、このTEIの導入をここ数年推進してきたACH(Association for Computers and Humanities)の主催する国際会議においても、ついに文学作品を構成する要素とは言葉の「意味」だけにとどまらないのではないかという疑問が呈されていた(昨夏ドイツでおこなわれたこの会議に海外出張として参加)。つまり、文学作品のデジタル化にあたり「本」としてのグラフィックな美的要素をどう考慮するのか、という問題が、このテクストデータか、画像データかという議論の背景にあるのであり、それは「文学」とは何かという非常に難しい点に関わる深刻な問題である。私自身、ドイツの文献学が文献学的編集における「写真」というメディアの重要性を強調しはじめたころから、この問題の所在についてはすでに気づいており、今年一年さらに考察を重ねたことにより一応の結論に達してはいる。今年度はまだそれを具体的成果につなげるところまでは至らなかったが、来年早々にもそれを論文にまとめ、その理論的根拠にもとづき、いよいよ新たな「テクスト」作りの実践に乗り出したいと考えている。
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