2002 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ・モダンダンスのディスクール分析―その思想史的位置づけをめぐって―
Project/Area Number |
14710357
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 庸子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 助教授 (00273201)
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Keywords | ダンス / モダンダンス / 表現舞踊 / ドイツ / ワイマール / ヴィグマン |
Research Abstract |
本年度の課題であった、ティース、レメル、ベーン、ベーメらの著書については、読解と分析を行い、ラーバン『舞踏のための人生』、ヴィグマン『生の七つの踊り』、アニータ・ベルバー『悪徳、恐怖、エクスタシーの踊り』を始めとする、ドイツモダンダンス関係の一時資料を入手することができた。 これらの資料の分析を踏まえて、ワイマール時代の表現舞踏と、当時もてはやされた「新しい女性」のイメージの関わりを分析した。その結果は以下の5点である。 1.表現舞踏の流行は、ワイマール時代の女性の主体性や内面性を表現したいという欲求とかかわっていることを、ヴィグマンのエッセイ『女性の舞踏表現』等を元に分析した。 2.表現舞踏の担い手が市民層の女性であったことは、19世紀以来の劇場のジェンダー構造への挑戦となった。この反逆の構造と、それに対する男性側の反発を、批評家フランツ・ブライのエッセイを元に分析した。 3.表現舞踏の女性舞踏家たちの活動は、身体表現と言語表現の両方を視野に入れて観察されなければならない。ヴィグマンの『生の七つの踊り』は1)男性が台本・演出を、女性が舞踏を担当したバレエとは異なり、ヴィグマンが台本・演出・舞踏のすべてを担当している。2)舞踏作品であるとともに、著書としても刊行されている。3)言葉、音楽、舞踏を結びつけた「総合芸術作品」である。4)作品の内部で、男性=声と女性=身体の闘争がテーマになっている。という四点において、言葉と身体を統一し、主体性を手に入れようとする女性舞踏家の試みと理解することができる。 4.これに対してアニータ・ベルバーの舞踏は、むしろ崩壊していく主体や内面の表現として理解できる。一般にはスキャンダルとしてのみ語られてきたベルバーのヌードダンスや『コカイン』の社会批判の構造を、詩人ロホヴァンスキや振付師イェンチークの批評を元に再検討した。またベルバーと夫ドロステの共著『悪徳、恐怖、エクスタシーの踊り』を分析し、「斬首」や「絞殺」のモチーフの頻度から、言葉と身体を分割しようとする暴力性が見られることを明らかにした。以上の分析は『ベルリンのモダンガール』(仮題、共著、三修社)の中の一章にまとめた。この著書は来春刊行予定である。 5.なお、今年度の課題として挙げていた、マリー=ルイーゼ・ベッカーに関しては、伝記的調査が難航し予定したほどには進まなかった。とりあえず、ベルリンの住民登録局に調査を依頼して生没年と本名を確定し、また簡単な履歴を手に入れることができた。
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