2002 Fiscal Year Annual Research Report
ソヴィエト記号論(モスクワ・タルトゥー学派)の位相とその哲学的・歴史的系譜の研究
Project/Area Number |
14710361
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中村 唯史 山形大学, 人文学部, 助教授 (20250962)
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Keywords | ロトマン / ソ連(ロシア) / 記号論 |
Research Abstract |
平成14年度は、主として、モスクワ・タルトゥー学派と、同学派に強い思想的影響を与えたロシア・フォルマリズム、ヴィゴツキイ学派、バフチン等の著作、および彼らに関する論考の整理・読解という基本的な作業を行なった。 そのため、研究課題に直接関係する研究実績は論文「ロトマン『物と空虚とのあいだで』読解:構造という閉域をめぐる言説の諸類型」(『スラヴ研究』49号、147-177ページ)1本に留まった。これは、タルトゥー学派の中心人物であるロトマンによる現代詩人ヨシフ・ブロツキイの詩学の考察を検討することを通して、「境界」ほか前者の記号論の基本概念の意義についての定位を試みたものである。 ロトマンをはじめとするソ連記号論は、とくに文学史やテキスト分析の領域において顕著な成果を挙げており、部分的にではあれ彼らの方法を現代文学の考察に応用する試みは生産的であろう。「無標のロシアの成立まで:パーヴェル・クルサノフ小論」(『現代文芸研究のフロンティア(III)』、96-110ページ)は、現代ロシアの文学・思想潮流を代表する作家のひとりであるクルサノフの作品テキストとそのイデオロギー性を、ロトマンの方法を敷衍した「有標/無標」の概念を鍵として読み解こうとした論文である。 上記の論文の執筆を通じて、ロトマンらの方法が「空虚」「無標」「見えざるもの」を記述する際に根本的な困難に直面することが明らかになった。今後はこの困難が方法的な欠陥によるものか、あるいは「見えざるもの」の記述を予め放棄したものかを、彼らのテキストを歴史的連関において読み解く作業を通じて、明らかにする必要がある。
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Research Products
(2 results)