2002 Fiscal Year Annual Research Report
国際刑事裁判所規程における「補完性の原則」の意義と限界
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14720021
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
洪 恵子 三重大学, 人文学部, 助教授 (00314104)
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Keywords | 国際刑事裁判所 / 補完性の原則 |
Research Abstract |
私の研究課題は「国際刑事裁判所規程における『補完性の原則』の意義と限界」である。1998年ローマで採択された国際刑事裁判所(ICC)規程(ローマ規程)は2002年に発効し、活動を開始した。ローマ規程はICCと諸国家の国内裁判所と関係について、「補完性の原則」(前文・1条・17条)を規定する。つまりICCは国内裁判所が機能しない場合にのみその権限を行使する「補完的」な存在である。ところで、これまで国際犯罪規制は国内裁判所を通じて行われてきたので、実際に事件が起きた場合にICCと自国の管轄権の行使を主張する国家の間に軋櫟が生じうる。したがってローマ規程における「補完性の原則」の内容を正しく把握することは単に理論的に重要であるばかりではなく、実際上も大きな意味を持つ。そこで今年度は研究の対象をローマ規程の関連規程の解釈に絞り、その起草過程・内外の研究者の見解を丹念に検討した。ローマ規程における補完性の原則が正確にはどのような意味を持つのかについては二つの異なる見解が対立する。ICCの役割を最小限度に抑えたい立場は国家が何らかの手続を開始していればICCは管轄権を行使できないとするのに対して、ICCの役割を最大限確保したい立場は単に国家が手続を開始しただけでは十分ではなく、その審理が国際的標準にかなっているかどうかも問題にすべきだとする。起草過程の検討により、この見解の対立はローマ規程採択の際の外交会議に起因することがわかった。つまり国家の刑罰権という高度に政治的な問題を取り扱う多数国間条約の作成においては諸国家がICCに求める或いは許す権限について完全な一致を見ることはできず、このような対立をいわば抱えたままでローマ規程は採択された。ローマ規程が発効した以上今後この対立の解決はICC自身の判断に委ねられることになる(今年度の研究成果は「国際刑事法の発展と国内法」としてまとめた)。
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Research Products
(1 results)