2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14720052
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
和田 俊憲 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (80302644)
|
Keywords | 危険犯 / 生命倫理 / クローン技術 |
Research Abstract |
1.具体的危険犯とされる未遂犯における危険は、当該行為と同一性のある行為からある時点において違法な既遂結果が発生し得たといえる高度の可能性と解すべきであるが、抽象的危険犯においては、行為の時点での当該行為の一般的・抽象的危険があれば足り、その危険の抽象度には理論的制約があるとはいえない。 2.しかし、極度に抽象的であっても、処罰根拠として法益の侵害ないし危殆化が求められるのは、そうした方がより深い具体的理由をつけた処罰の基礎づけが可能になるというだけでなく、特定・同一の法益を結節点として展望的予防と回顧的非難とを結びつける点にこそ刑法の本質があり、その本質は、時代状況が変わっても維持されるべきだからである。 3.一方、クローン技術を初めとする先端生命科学技術に対する刑事的規制の特徴は、まだ発生していない事態に対する展望的予防の要素と、多くの場合まだ行われていない行為に対する回顧的非難の要素とを含む対処が求められる点にあるが、ここでも回顧的非難の対象と展望的予防の対象とはあくまで一致させられるべきである。 4.そこで、人クローン胚移植罪等の保護法益は、非難の観点にとらわれて生命倫理や人間の尊厳といった超個人的かつ観念的なものに求めるのも、また、予防の観点を強調して産生後のクローン個体の安全や唯一性といった個人的法益とするのも妥当でなく、むしろそれは、「個性の誕生において他人に支配されていない個人によって構成される平等な社会」と理解すべきである。 5.それと同じ観点からは、ヒト胚の棄滅行為の規制根拠はクローン個体等の産生の危険にのみ求められ、それを目的としない学問研究を永続的に規制すべき理由はない。
|