Research Abstract |
今年度は主に,これまでのデータのとりまとめを行った.まず,これまで統一がなされていなかったカトマンズ盆地北部の地層について,これまでの調査結果にもとづいて,再定義を行った.とくに,カトマンズ盆地北部に見つかった80万年前以前の地層についてはダラムタリ層,最終氷期に堆積した地層については,これまでゴカルナ層とまとめられていたが,不整合に隔てられることを考慮して,新たにサングラタール層を定義した.この結果についての論文をネパールの現地の国内雑誌に投稿予定である.ゴカルナ層からはこれまでに盆地内部の差別的な沈降の影響は議論されていなかったが,年代測定の結果から,盆地の中心方向で,過去4万年間におよそ40m相対的に沈降していることが明らかになった(10m/ky).が,地層自身に大きな傾動がないため,同時期の地層の特徴を,そのまま水位の上昇速度の違いと認識して,地層の形成過程の違いを議論することが可能となる.水位上昇速度の大きな場の地層は鳥趾状三角州を形成する地層が卓越しており,ピートが多く挟まれる.また,個々の鳥趾状流路も累積する様子が認められる.一方で,水位の上昇量が小さい場では,こうした特徴はあまり認められず,シート状の流路堆積物が頻繁に挟まれる.これは,水位上昇速度が遅い状態で流路が頻繁に側方に移動したことを示しており,すなわち,デルタとしては水位上昇速度が速い場では鳥趾状の形態が維持された状態で地層形成が進んだのに対して,水位上昇速度が遅い場ではそれが起こらず,おそらくは円弧状に近いデルタが形成されていたと思われる.すなわち,水位上昇速度の大きい場では,流路周辺での堆積作用が重要で,流路の側方シフトがおきにくい場である可能性が示された.このように,年代を細かく入れ,水位上昇速度の違う場の地層を比べることで,とくにデルタの地層形成やその特徴の違いを具体的に理解することができた.
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