2002 Fiscal Year Annual Research Report
水中の有機酸分子及びイオンの並進・回転拡散係数の大小関係の反転
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14740326
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
若井 千尋 京都大学, 化学研究所, 教務職員 (40293948)
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Keywords | 核磁気共鳴 / 並進拡散係数 / 回転拡散係数 / 回転相関時間 / 電荷効果 / ギ酸 / 圧力効果 |
Research Abstract |
本年度は、大きく二つに分けた研究目的のうちの一つである『電荷の有無は、イオンと中性分子での回転拡散係数の大小関係の反転を引き起こすかを明らかにする』ことに主眼をおいた。NMRを用いて、ギ酸分子及びそのイオンの並進・回転拡散係数を、1Mから1mMという、非常に低い濃度領域まで調べた。その結果、どの濃度においても並進拡散係数はギ酸イオンの方が小さいのに対し、回転拡散係数は逆にギ酸イオンの方が1.8倍も大きいことを初めて明らかにした。このような逆転現象は、溶質の並進及び回転拡散係数を溶媒の粘度と溶質の排除体積によって説明する、流体力学的モデルの本質的な破たんを意味している。理論的な説明にはまだ至っていないが、今後、計算機シミュレーションを用いて原因を明らかにする予定である。 常温常圧下での測定に成功した後、更に高圧下での測定を遂行した。ギ酸分子とギ酸イオンの回転拡散係数の圧力依存性を、高圧NMR装置を用いて研究した。その結果、ギ酸分子の回転拡散係数は、無極性分子であるベンゼンと同様に、圧力増加と共に単調に減少した。これは、圧縮によって溶質-溶媒分子間の平均距離が小さくなり、斥力的相互作用が強くなるためと考えられる。これに対し、ギ酸イオンは、圧縮されているにも関わらず回転拡散係数はわずかに増加した。これは、水の水素結合構造が圧力によって歪められ、水素結合が弱められるためと考えられる。150MPa以上の圧力になると、密度増加に伴う斥力の増加によって回転拡散係数は減少に転じた。このような傾向は、より大きな溶質であるニトロメタンと硝酸イオンの組み合わせにおいてより顕著に見られることも確認した。圧力効果においても、中性分子とイオンでは大きく異なることを明らかにした。 これらの研究成果を、平成14年度の二つの学会において発表しており、更に投稿論文にまとめているところである。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] Y.Nagai, C.Wakai, N.Matubayasi, M.Nakahara: "Noncatalytic Cannizzaro-type Reaction of Acetonitrile in Supercritical Water"Chemistry Letters. 32. 310-311 (2003)
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[Publications] 松林 伸幸, 若井 千尋, 中原 勝: "超臨界流体のすべて 2章 超臨界流体のミクロ物性、2節 NMRによる超臨界流体の構造解析"荒井 康彦監修、株式会社テクノシステム. 22-26 (2002)
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[Publications] 若井 千尋, 松林 伸幸, 中原 勝: "新しい高圧力の科学4.2章 液体・溶液物性への応用"毛利 信男編、講談社サイエンティフィク. 147-201 (2003)