Research Abstract |
近年,ロボットの知能は,制御系単体から創り出されるものではなく,制御系(脳)と機械系(身体系),そして環境(生態学的ニッチ)の三者間の相互作用ダイナミクスを通して発現(創発)する,ということが広く認知されつつある.このことは,ロボットを設計する際には,与えられた機械系(身体性)のダイナミクスを積極的に活用するような制御方策(dynamics-based controlと呼ばれている)を採用することのみならず,制御方策の潜在能力を引き出すように機械系のダイナミクス(あるいは,より広い意味でモーフォロジー)をも併せて改変することの重要性を示唆している.しかしながら,このような観点からの研究は緒に就いたばかりであり,制御系と機械系のダイナミクスの適切な「結合のさせ方」に関して議論している研究は,依然として皆無に等しいのが現状である. そこで本研究は,システム全体として適切な性能を発現できるような,制御系と機械系ダイナミクスの「有機的な」結合のさせ方を数理的に考察することを目的とする.具体的には,複数の体節から構成される多脚歩行ロボットの自律分散的歩容制御問題を取り上げる.そして,任意の脚間初期位相差からエネルギー消費を最小とするような適切な歩容への収束性が,「体節間の情報のやりとり(換言すれば,神経回路の張り巡らせ方)」と「体節間の力学的干渉(換言すれば,背骨の剛性:これまでの多脚歩行ロボットに見られる「かちかち」の背骨では,脚間の長距離相関が生じてしまい,歩容の収束性が劣化する恐れがある)」の両者によって規定されることを示し,これらの適切な結合ダイナミクスの設計方法を明らかにする. 平成14年度では,上記の問題設定のもとで,歩容の収束性が,制御系ダイナミクスと機械系ダイナミクスの両者から構成される結合システム行列の優対角性によって規定されることを数理的に明らかにした.また,シミュレータを構築し,体節間を非線形バネで接続し,その剛性が歩容の収束性に大きな影響を与えることを数値実験的に確認した. 平成15年度では,本年度に構築したシミュレータを用いて,ハンドチューニングによるパラメータの最適化を行った.得られたパラメータを用いて位相収束特性を司る行列の固有値解析を行った結果,スペクトル半径が1.0以下となっていることが確認できた.これらの結果を通して,制御系と機械系の両ダイナミクスを調節する意義が明らかとなった.今後は,PCクラスタを用いてパラメータの最適化作業を進める予定である.
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