Research Abstract |
根域制限ベッドで栽培している6年生の'ピオーネ'(台木:SO4,土量:60l/樹)24樹を供試した。発芽期から果粒軟化期まで窒素濃度で60ppm,それ以降は20ppmに調整した総合液肥を与えたL区,結実期以降L区の1.5倍濃度の液肥を与えたM区,同様に2倍濃度の液肥を与えたH区の計3区を設けた。収穫時の果粒径,果粒重,果汁のTSS,滴定酸度に区による差はなかった。収穫時の果皮色は,L区ではほぼ黒色であったが,M, H区では着色が進まず,赤紫色であった。果皮のアントシアニン含量(O.D.530nm)はL, M区の間に差はなく,H区で著しく少なかった。HPLCによるアントシアニン組成を比較すると,H区ではマルビジンをアグリコンとするアントシアニンの比率が低かった。表皮,亜表皮液胞中のアントシアノプラスト(ACP)形成を比較すると,L区では果粒軟化後の早い段階で多数のACPが形成され,それらが融合を繰り返し,収穫時には巨大なACPを含む細胞が多く存在したのに対して,M区のACPはL区の約半数しか形成されず,大きさも小さかった。H区ではACPの形成が遅れ,その大きさも著しく小さく,ACPの融合も進まなかった。このように,高濃度施肥による着色不良は,アントシアニン,特にマルビジンをアグリコンとするアントシアニンの生合成が抑制されることが原因の場合と,アントシアニンの生合成には差がない場合でも,ACPの形成,融合が抑制されることが原因である場合があることが明らかとなった。現在,アントシアニン生合成酵素の測定と,総ポリフェノール,フラボノイド含量やタンパク含量,MgやKなどの無機イオン濃度の分析を進めている。15年度は,他の着色不良を招く栽培条件(遮光,過剰着果)におけるアントシアニン合成,ACP形成,生合成酵素活性を比較し,アントシアニン生合成経路のキーとなる酵素を明らかにするとともに,ACP形成のメカニズムについても研究を進める。
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