2002 Fiscal Year Annual Research Report
イカ類におけるボディーパターンの機能と発達に関する行動学的研究
Project/Area Number |
14760127
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
池田 譲 理化学研究所, 脳創成表現研究チーム, 研究員 (30342744)
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Keywords | 頭足類 / アオリイカ / 脳 / ボディーパターン / 行動 / コニュニケーション / 飼育 |
Research Abstract |
イカ類は発達した脳,神経系を基盤に複雑で精巧な行動を表す動物である.中でも,神経支配による瞬時で多彩な体色変化を伴うボディーパターンは個体間のコミュニケーションの重要な手段と考えられる.本研究は,イカ類の思考および水圏環境への適応性を理解するという観点から,イカ類に特有な行動特性であるボディーパターンの機能とその発達過程を明らかにすることを目的に,理化学研究所イカ長期飼育施設において飼育管理されているアオリイカを対象に行動観察を中心として以下の研究を行った. 平成14年度は,「アオリイカのボディーパターンの意味解読」を目標に次のような事柄を実施した.卵から水槽内で育成した亜成体期から成体期のアオリイカについて,その行動を詳細に観察し既往の報告も参照しつつボディーパターンの種類と特徴に関するカタログを作成した.次に,捕食や繁殖など生活史上の特徴的な行動に注目し,それに伴い発現するボディーパターンをデジタルビデオカメラにより記録しその発現順序や規則性について解析した.これらを通じて,アオリイカは捕食の際に円錐形に窄めた腕に明瞭な暗色帯(ハンティングマーク)を発すること,交接時の雌を巡る雄間の争いにおいて雄は腕を水平に広げて外套背面に際立つ縞模様(ゼブラ縞)を形成してライバル雄を威嚇すること,群れ形成に際して隣接する個体がある距離よりも接近すると外套先端部を白く浮き立たせ接近個体への注意を促すシグナル(アテンションシグナル)を発することなど,ボディーパターンの具体的な機能について明らかにした.さらに,アオリイカ成体は自らの鏡像に対して高い関心を示し,体色を暗化させて鏡像に接近して繰り返しそれ(鏡面)に触るという特異なボディーパターンを示すことを発見した.これは,通常は見られない行動であり,イカ類における自己認知,或いはその萌芽を示唆するものと考えられた.
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