Research Abstract |
【目的】エナメルタンパク(Enamel protein : EP)は歯胚発生期において,象牙質と無細胞性セメント質の初期形成を誘導することが知られている.近年,組織再生療法の高まりの中,EPの生物学的作用を歯周組織再生療法に応用することを意図して,エナメル基質誘導体(Enamel matrix derivative : EMD)が開発された.EMDはin vitroの実験において未分化間葉細胞の増殖,石灰化ノズル形成を促進し,大腿骨組織に作用させたin vivoの実験においても,骨新生を有意に促進したと報告されている.しかし口腔内で最も未分化間葉細胞に富む歯髄組織に及ぼす作用を検討した報告はこれまでになかった.本研究はEMDを生活歯髄切断法における直接覆罩剤として用いた場合,修復象牙質形成に及ぼす作用を組織学的,微細構造学的に明らかにする.更にEMDの担体として,高い局所滞留性を有する,高分子ヒアルロン酸(HA)を用いたときの検討を加える. 【方法】生後2ヶ月齢のWistar系雌性ラットを用いる.ジエチルエーテルによる麻酔下で,滅菌した直径0.8mmのラウンドバーにて,上顎第一臼歯を露髄させ,冠部歯髄を切断,除去する.歯髄切断後,滅菌生理食塩水で創面を洗浄し,簡易止血後,HAを溶媒として用いたEMD,あるいは対照群としてHA単独を覆髄し,レジン系光硬化型グラスアイオノマーセメントで窩洞を修復した.断髄後7日-30日後,ラットをグルタールアルデヒド溶液で灌流固定し,上顎第一臼歯を採取し,BSEによる組成像の観察と微小部X線分析および,光顕,透過電顕観察を行った. 【結果】BSE観察では,修復象牙質形成はEMD+HA群およびHA群ともに広範囲であり,断髄後14日から30日にかけて象牙質橋が形成された.両群における修復象牙質のCa・P重量%およびCa/Pモル比のEDX分析値は,既存の象牙質と同様であった.光顕観察では,断髄後30日において,象牙質橋や修復象牙質が顕著に形成されているのが観察された.透過電顕観察では,高円柱状のタンパク合成型の象牙芽細胞による象牙前質と象牙質が形成され,さらに象牙芽細胞突起の細管構造内への明瞭な侵入像が認められ,真生象牙質であることが確認できた. 【結論】EMDおよびHAは,生活歯髄切断後の修復象牙質と象牙質橋の形成に促進的な作用を示した.
|