Research Abstract |
本研究は,脳性麻痺者(以下,CPと略す)の顎口腔機能に関する研究,特に,下顎位感覚と咀嚼筋筋活動のとの関係についてであるが,中枢神経系に起因する口腔機能障害の病態を中枢神経レベルから解明する方法の確立にあり,CP者の口腔機能障害を理解するためと期待される。そこで本年度はCP者を対象に笑気吸入鎮静法の笑気ガスが咬合や下顎位感覚に及ぼす影響の有無を確認するために,笑気吸入時と非笑気吸入時の条件における下顎位感覚の相違を咀嚼筋に対する振動刺激前後の弁別能の比較検討し記録,分析を行うことになっていた。しかし,その前に一つ解明しておかなければならないことがあったため本年度では以下のことを行なった。上記については平成15年度に行なう予定である。本年度の研究ではCP者の咀嚼筋に対し,マッサージを想定した振動刺激を加えCP者に対する脱感作が,どのように下顎位感覚に影響するのかを確認するため,顎口腔系に異常のない健常成人を対象に,CP者の咀嚼筋筋感覚を下顎位感覚弁別能テストにより評価し比較検討した。被験者は,CP者8名,対象として健常成人8名とした。下顎位感覚の弁別能は,被験者に基準棒を上下顎中切歯間で5秒間同じ位置で保持させ,歯列よりはずし,次に試験棒を同一部位で5秒間保持させた。その後,試験棒を歯列より外した後,被験者に対し試験棒の太さによる開口量が基準棒による開口量と比べて"厚い"か"薄い"かの2つの選択肢のいずれであったかを認知させ回答させた。条件としては振動刺激前と振動刺激後において実施した。その結果,以下の知見を得た。(1)CP者と健常成人の刺激前の弁別能の比較では,開口度が9.0,9.5mmの基準より低い場合,11.0,11.5の基準より高い場合では,CP者は健常成人よりも有意に高かった。(2)CP者と健常成人の刺激後の弁別能の比較では,どの開口度でも有意差は認められなかった。(3)健常成人の刺激前後の弁別能の比較では,開口度が9.5mmの基準より低い場合では,刺激後は刺激前よりも有意に高かった。(4)CP者の刺激前後の弁別能の比較では,開口度が9.5mmの基準より低い場合では,刺激後は刺激前よりも有意に低かった。以上のことから,CP者の成績が健常者と反対の成績が得られたのは,緊張性振動反射(tonic vibration reflex)の発現で,γ-運動神経系の活動が低下したことにより,結果として,振動刺激により過敏な筋感覚の閾値を上昇させたと思われる。その結果,CP者の弁別能力が向上したと考えられる。
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