2002 Fiscal Year Annual Research Report
途上国における社会開発ツールとしてのスポーツに関する基礎研究
Project/Area Number |
14780009
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小林 勉 信州大学, 教育学部, 講師 (20334873)
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Keywords | 社会開発 / 住民参加 / 女性のエンパワメント / コミュニティ / ヴァヌアツ / スポーツ社会学 / 総合型地域スポーツクラブ |
Research Abstract |
コミュニティ形成に寄与するスポーツという視点は、これまでおもに先進諸国のなかだけで論じられてきており、それを途上国の開発問題に結びつけて検討した実証的な研究はなされていない。本研究の対象地となるヴァヌアツ共和国は、家事の大半を女性が担うなど、とりわけ、女性のエンパワメントが大きな課題のひとつとなっており、女性のエンパワメントに向けて、教育省青年局を中心にワークショップを各地で展開されている。女性の家事に従事する時間が多く、村落間で女性同士の交流する機会が限定されているため、一般に村落を越えた女性の組織化が困難とされている。このようななか、1997年よりニューカレドニアからtraditional cricketと呼ばれる女性向けのクリケットが紹介された。このスポーツの浸透により、現在、ヴァヌアツ人女性のなかに次のような変化が現れてきている。 1、試合や会合などへ参加するため、女性の定期的に外出する機会が増加し、それを正当な外出理由として男性が認識。 2、女性同士の語らいの時間が相対的に増加したほか、土曜日の午後の家事・育児が男性の相当するようになった。 3、各村落相互の定期的な交流など、クリケットを通じて女性同士の社会的なネットワークが活発化。 以上のような動向を、ヴァヌアツ現地調査から明らかにすることができた。これらの動向は途上国の社会開発を考えていくうえで、ふたつの点で大きな示唆を与えてくれる。ひとつは、政府の青年局をはじめ、各援助機関が女性をエンパワメントしていくための現地女性の組織化に苦労していた際に、クリケットによるネットワークが、いち早く村落を越えた女性のネットワークを作り出しつつあるという点であり、もうひとつは、それが外発的なかたちではなく、女性が自発的にリーグを組織し、女性自身により自主的に運営してきているというように、内発的に展開されてきているという点である。これまでの「社会開発論」においては、住民は基本的に開発の対象となるものであり、開発プログラムの策定主体は政府や各援助機関であって、「住民参加」とは、「住民を参加させるプログラム」であり、「住民組織化」とは「住民を組織化するプログラム」である色彩が強かった。住民参加は、「行政にいかに住民を参加させるか」という「住民組織化」に重点が置かれたのであって、「住民がいかに自ら組織化するか」という視点は弱かったのである。本研究の事例から、社会開発を展開していく契機として、「開発」の文脈におけるスポーツの新たな地平を切り開く可能性を確認することができた。 また同時に、国内においてはスポーツを通じた地域開発の事例を「総合型地域スポーツクラブ」の推進地域から調査し、「Play for fun」を起点に展開され始めたコミュニティ・スポーツが、「I want to win→I have to win」とスポーツ欲求を一義的に高めてくるなかで、コミュニティ再編の阻害要因となることを明らかにした。そして、長野県の総合型地域スポーツクラブの事例をもとにしながら、生涯スポーツ時代におけるコミュニティ・スポーツの今後の課題について提示することができた。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 渡辺敏明, 小林勉: "生涯スポーツ時代に求められる指導者像:信州大学公開講座の事例"信州大学教育学部研究紀要. 107. 111-120 (2002)
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[Publications] 小林勉, 渡辺敏明: "Sports for Allムーブメントから捉える総合型地域スポーツクラブ育成の課題"信州大学教育学部研究紀要. 108. 81-90 (2003)