Research Abstract |
2002年8-9月,中国 寧夏回族自治区 海原県 海城鎮 山門村(世帯数・403戸,人口・2014人,2001年末現在)において,回族住民の血縁関係,農業経営,宗教活動などについて聞き取りを実施し,資料収集も行った。 調査集落においては,全耕地面積の97.3%が村民小組内に位置し,かつ自作されている。この理由は,1980年代に集団農業から個人農業に移行した際に,当時の世帯人数に準じて耕地が各戸に分配され,その耕地が現在まで継続的に耕作されていることである。また,調査集落では,利益の比較的多いタマネギ栽培が盛んであるが,タマネギは苗の購入に比較的費用がかかるため,苗の購入費用を投資できる世帯のみしか栽培を行えず,村落内での貧富の差を拡大させている。 農民の農業技術に対する知識が不足している要因として,学校教育の未普及が考えられる。つまり,子女の学費を捻出できないこと,および調査村の教育施設が整備されていないことが原因で,多くの住民が小学校を中退してしまっている。したがって,もしも,調査村のような貧困地域における経済状況の改善を目指すのであれば,第一に学校教育の普及に力を入れる必要がある。 宗教活動に関して,回族住民は,スーフィー教団の有名な人物が亡くなった後に祭られた,「拱北」(ゴンベイ)とよばれる聖者廟への参詣をとおして,コミュニティ外部の世界と社会的・文化的な交流を行っている。調査地域には少なくとも27の聖者廟がある。聖者廟に参詣する目的は,普段の生活での幸運を求める現世利益と,死後の幸福を求める来世利益の両方である。参詣者は,聖者廟参詣において多くの人々と「回族」または「ムスリム」としての一体感を体験し,またさまざまな宗教知識を得る。この体験をとおして,回族住民の文化的アイデンティティは強化され,それは地域文化を維持・変容させる要因のひとっとなっている。
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