Research Abstract |
本研究では,計算論的な聴覚情景分析の考えに基づいて,実環境下における基本周波数の推定法を確立するために,次の課題に取り組んでいる.(1)聴覚心理学・生理学の知見を踏まえ,音の聴覚的情報表現を考慮した上で,その中から基本周波数を推定する数理的メカニズムを検討する.(2)基本周波数を推定するために必要な特徴量が,どれだけ雑音・残響に影響を受けるかを検討し,ロバストであるための方略を明らかにする.(3)クリーンな時だけでなく,雑音・残響に頑健で精度の高い基本周波数推定法を確立する. これまでに,雑音環境に特化して(1)-(2)に取り組み,雑音に頑健な信号の瞬時振幅における周期性と調波性を利用した基本周波数推定法を実装した.本年度は,残響環境に特化して(1)-(2)に取り組んだ.(1)については先の検討と同じものとした.(2)については,昨年度に引き続き,残響環境に頑健な音声信号の特徴を洗い出すために,これまでに利用されてきた様々な基本周波数推定方法を比較検討した.この結果,最小位相特性を有する信号成分から推定された音源情報における周期性・調波性が残響に関して頑健であることがわかり,この特徴を利用した基本周波数推定法を実装した.室内音響特性を統計的に模擬したインパルス応答を利用して大規模なシミュレーションにて本手法の評価を行ったところ,残響に関して頑健であることが示された.現段階では,雑音に頑健な推定法と残響に頑健な推定法の方略がそれぞれに特化しているため,課題(3)として両者を同時に達成できる手法にはまだ至っていない.しかしながら,雑音や残響それぞれに対する基本周波数推定法を提案することができたため,例えば,残響時間が短い環境での耐雑音特性を必要とするような環境では,本手法を効果的に適用できるものと考えられる.
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