2014 Fiscal Year Annual Research Report
ラン科植物における転写後修飾によるエピジェネティックなクロマチン動態の研究
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14F03399
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
向井 康比己 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30110795)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SHARMA Santosh 大阪教育大学, 教育学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ラン科植物 / Cymbidium / Dendrobium / エピジェネティックス / 減数分裂 / 免疫染色 / 抗メチル化シトシン抗体 / ヒストン修飾抗体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、インド原産絶滅危惧種のラン科植物の染色体レベルでのゲノム構造を分子細胞遺伝学的に調べることを目的として研究を進めた。多様な表現型を示すランにおいて、その多様性の原因を特にクロマチン構造のエピジェネティックな変化に注目して行った。実験に用いた植物は、主として Cymbidium あるいは Dendrobium 属に所属し、観賞用または医薬用として経済的に重要なものであった。 第1課題では、核型や染色体の同定がなされていないこれらの種において、45Sおよび5S rRNA遺伝子をプローブとしてFISH法を用いて染色体上にマッピングを行った。Cymbidiumはすべて2n=40、Dendrobium 属は2n=38であった。さらに、Dendrobium nobile においては2倍体と4倍体の間でrDNA領域に注目しが、明瞭な差異は見られなかった。 上記の課題を遂行するにあったって、減数分裂の全過程をCymbidium sinensis および Dendrobium pendulumで明らかにした。また、後者の花粉粒分裂において明瞭な中期像を得、染色体数がn=19であることが観察され、染色体学会のChromosome Calender 2015にその結果が掲載された。 第2課題として、DNAのメチル化が各染色体でどの程度おこっているか、2倍体種と4倍体種の両方が揃うDendrobium nobileを用いて抗メチル化シトシン抗体を使った免疫染色法で染色体上に可視化したが、標本が悪かったため倍数化による影響ははっきりしなかった。 さらに、蘭科植物においてエピジェネティックなクロマチン動態の有力な証拠となるヒストン修飾に関して予備的な実験を行った。市販の各種ヒストン修飾抗体を用いて。植物種によるユウクロマチン部位とヘテロクロマチン部位の検出パターンが差異を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験に必要な材料は各地で開催されたラン展や全国のラン販売業者から入手することができ、研究はスムーズに進んだ。ただ、1個体で採取できる分裂組織はほんのわずかであり、染色体数を決定できる良好な分裂像を得るには前処理が必要であった。 ラン科の細胞遺伝学はあまり発達しておらず、体細胞分裂の中期像の観察や減数分裂時期の同定と各ステージの観察のプロトコルがなく、その方法の確立に苦労した。また、免疫染色のための標本作りも工夫を加えた。従来、良好な染色体像を多く得るためには前処理が必須であったが、これを行うと免疫染色には使えなかった。今回の実験で免疫染色に使える前処理方法を開発した。Cymbidium および Dendrobium属において減数分裂(第1分裂および第2分裂)と花粉粒分裂の全ステージを明らかにした。この成果は、ラン科細胞遺伝学の基盤的な研究として評価されるであろう。 45Sおよび5S rRNA遺伝子をプローブとしてFISH法を用いて染色体上にマッピングの結果は、Cymbidium属ではすべて1対ずつで、Dendrobium 属では変異がみられたが、基本的には2対ずつであった。DNAのメチル化に関しては、各染色体で固有のパターンがみられたが、雑種形成や倍数化との関連については明確な結果は得られなかった。メチル化、アセチル化、リン酸化に伴うヒストン修飾について、12種類の抗体を用いて実験をし、現在結果を集積しつつある。 本年度の結果は、第65回染色体学会および第5回アジア染色体コロキウムで発表されるなど十分に当初の研究目的を達成した程度と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はDNAのメチル化程度と各種ヒストン修飾の2課題に的を絞って研究を行う。 Cymbidiumの原種、C. tracyanum, C. aloifolium, C. georingii, C. monozono, C. eburneum, C. pumilumを用いて、染色体上のメチル化のパターンの比較研究を行う。同様の研究を いくつかのDendrobium種やそれらの雑種を用いて行う。雑種形成に伴う、ゲノムのエピジェネティックな変化を可視化する。また、再度Dendrobium nobileの2倍体と4倍体を用いて倍数化による影響を調べる。 雑種形成に伴うヒストン修飾のエピジェネティックな変化を調べるために、Cymbidium sinense とCymbidium orientalの雑種とその両親を用いて実験を行う。GISH解析で雑種における両親種ゲノム由来の染色体を確認する。本年度使用した12種類のヒストン修飾抗体を用いて、染色体レベルの解析を行う。染色体の構造と機能を関連づけるために、体細胞および減数分裂におけるそれらのダイナミックな動態を明らかにする。 細胞周期おいて関与が予想されるヒストン修飾(H3S10ph/H3T3Ph)抗体を用いて、染色体の凝縮や分配との関連を調べる。 さらに、Cymbidium または Dendrobium属から重要な種を選んで、花粉形成におけるヒストンのエピジェネティックな変化を、小胞子分裂や栄養核・精核におけるクロマチンの状態を転写活性と関連づけて調べる。
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Research Products
(5 results)