2014 Fiscal Year Annual Research Report
新規ナノ膜デバイスを用いたプロトン受け渡し経路の研究
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14F04383
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野地 博行 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00343111)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
MCMILLAN Duncan 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ATP合成酵素 / プロトン輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
H26年度の実績概要としては以下の2点があげられる。 まず、好アルカリバクテリア由来のATP合成酵素のF1部分の1分子回転計測の確立である。これによって、ATP合成反応に直接係わっているF1部分の基本特性(速度論的パラメーターや、回転トルク等)が明らかとなりつつある。これまで、200 nm ポリスチレンビーズを用いた回転アッセイから、基本的なMichaelis-Mentenカーブを決定し、最大回転速度が約10Hz、Kmが数μM、ATP結合速度が106μM/secであることが分かった。また、低濃度ATP領域では明瞭な120°ステップも観察されている。長時間の回転計測からはADP阻害状態も観察されており、確立的に3カ所で停止することが判明した。これらの特徴は、これまでモデル回転分子モーターとして解析されてきた高度好熱菌Bacillus PS3株のF1とほぼ一致している。今後、より詳細な回転運動を計測するために低負荷プローブである40 nm金コロイドを用いた高速回転イメージングと、Fluctuation theoremを用いたトルク定量を計画している。 2点目は、ATP合成酵素にプロトン駆動力を提供するoxidase (cytochrome bo3複合体)の生成と生化学機能評価系の確立である。oxidaseの系については、既にいくつか生化学的研究の報告例はあるが、私たちのグループで取り扱った経験が皆無であった。生化学が確立していなければ1分子計測はおぼつかない。今回の成果によって今後oxidaseの1分子計測が開始できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年は、ATP合成酵素とoxidaseそれぞれの発現・精製・評価の系の確立を目指した。 1:高アルカリ菌由来ATP合成酵素の調整と評価 好熱好アルカリ菌(thermoalkaliphilic C. thermarum TA2.A1)由来ATP合成酵素のF1部分( TA2.A1 F1)の機能評価のために、大腸菌内発現系の構築とその精製を行った。1分子計測のためにβサブユニットにはN末端にHis-tagを導入し、TA2.A1 F1特有の強いADP阻害状態を緩和する変異を導入した。さらに、1分子回転実験用に回転子サブユニットに導入し1分子計測を行ったところ、連続的に回転運動している粒子の発見に成功した。回転方向は他と同様に反時計回りで、回転速度は約3Hzであった。同条件における他のF1よりも回転速度が低いため、TA2.A1 F1が出力する回転トルクは低い可能性がある。好熱高アルカリ菌C. thermarum TA2.A1は、非常に低いプロトン電気化学ポテンシャルで駆動する必要があるため、Foが回転時に乗り越えなければいけないF1の逆行トルクを低く下げていることを示唆するかもしれない非常に興味深い結果である。今後、より詳細な解析を行う必要がある。 2:大腸菌由来cytochrome bo3複合体の調整 本プロジェクトの最終目的は、oxidaseからATP合成酵素にどのようにプロトンが渡されるのかを解明することにある。そこで、調整が容易い大腸菌由来cytochrome bo3複合体の発現・精製を行った。この発現系は、Duncan McMillan 自身が以前の所属ラボで確立したものであるため、比較的短期間のうちに本研究質における精製系の確立がなされた。今後、そのユビキノン還元活性とプロトン輸送活性を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度は、好熱好アルカリ菌(thermoalkaliphilic C. thermarum TA2.A1)由来ATP合成酵素のF1部分( TA2.A1 F1)の1分子回転アッセイに成功した。また、Oxidaseに関しては発現・精製まで終了した。これを受け、H27年度は以下を実施する。 1: TA2.A1 F1の回転アッセイの洗練化と運動解析。H26年度に計測された回転運動は、回転子と回転プローブ(磁気ビーズ)の接続が1点のみであり、本来の回転トルクがプローブに伝わっていない可能性が高い。実際、磁気ピンセットで操作しても応答が弱い。そこで、rotorの様々な位置にcysを導入した変異体を作成し、その効果を磁気ピンセット操作で評価する。 2:Oxidaseは、その機能評価を行う。ユビキチンの酸化活性と、これと共役したプロトン輸送活性を評価する。機能を確認した後、脂質二重膜チャンバーデバイスへの再構成実験を実施する。この実験で、1分子単位のoxidaseのプロトン輸送活性を決定する。この際、脂質分子にプロトンドナーとなるリン脂質の有無によって見かけのoxidaseの輸送活性がどのように変化するのかを見ることで、プロトン拡散のパターンを推定する。
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