2014 Fiscal Year Annual Research Report
性的二型を示すカイガラムシの変態の進化およびホルモンによる制御機構の解明
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14F04402
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田中 利治 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30227152)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
VEA Isabelle 名古屋大学, 生命農学研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | カイガラムシ / 性的二型 |
Outline of Annual Research Achievements |
カイガラムシは発育において性的二型を示し、雌雄で外部形態が全く異なっている。すなわち、オスは幼虫および擬蛹と呼ばれる時期を経て有翅成虫へ成長する一方、メスは幼虫から直接、翅(はね)のない成虫になる。カイガラムシはカメムシなどと同様、蛹期がなく幼虫から成虫へと成長する「不完全変態」と分類されているが、変態が特殊なことから「新変態」と呼ばれる。一般的に昆虫の変態は脱皮ホルモンと幼若ホルモン (JH) によって制御されることが知られているが、カイガラムシの特殊な発育様式を制御する内分泌機構は不明である。そこで、カイガラムシの「新変態」を制御する分子基盤について、内分泌的な観点から明らかにすることを目的とした。 平成26年度の研究実績は以下の通りである。 【ホルモンシグナリング遺伝子の探索および発現解析】フジコナカイガラムシのトランスクリプトーム・データベースを利用してホルモンシグナリング遺伝子を探索し、JH生合成およびシグナリングに関わる複数の因子を同定した。これらの因子について、発育に伴う発現変動を定量PCR法によって確認したところ、いくつかの因子が性特異的に発現することが判明した。 【ホルモンシグナリング遺伝子の機能解析】フジコナカイガラムシで遺伝子機能解析を実施することを目的として、二本鎖RNAの注射によりノックダウンを引き起こすRNAi法を試みた。現在、注射に用いる昆虫の発育段階や二本鎖RNA濃度について条件検討を重ねている。 【フジコナカイガラムシの体内に含まれるJH濃度の調査】JH生合成の律速酵素であるJH酸メチル基転移酵素のcDNAを単離した。その発現変動を定量PCR法により調べたところ、若虫期において発現量に雌雄差が見られた。これらのことから、実際の体内JH濃度も雌雄で異なっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、カイガラムシの特殊な変態と性的二型を制御する分子基盤について、内分泌的な観点から明らかにすることを目的としている。研究成果の各項目に対する達成度は以下の通りである。 【ホルモンシグナリング遺伝子の探索および発現解析】今までに、トランスクリプトーム・データベースを利用してホルモンシグナリング遺伝子を探索し、JHシグナリングに関わる複数の因子を同定した。またこれらの因子すべてに関して、発育に伴う発現変動を定量PCR法により明らかにした。このように、当初の計画通りに研究を進めることができた。 【ホルモンシグナリング遺伝子の機能解析】上記のようにフジコナカイガラムシにおいて、二本鎖RNAの注射によりノックダウンを引き起こすRNAi法を試みた。なお、当初はこの内容を平成27年度に実施予定であったが、機能解析を行っていくのに時間がかかることが予想されたため、前倒しで実験を開始した。 【フジコナカイガラムシの体内に含まれるJH濃度の調査】平成26年度の研究では上記のように、JH生合成の律速酵素であるJH酸メチル基転移酵素の発現変動から、体内JH濃度の推定を行った。これは当初予定していたのとは別の研究アプローチであるものの、雌雄でJH濃度が異なることを示唆する重要な知見が得られた。 以上のように、当初研究目的は十分に達成され、研究が順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえ、今後は以下のような推進方策を考えている。 【ホルモンシグナリング遺伝子の探索および発現解析】平成26年度中に、当初予定していた因子の同定はほぼ終了したが、因子によってはスプライシングによって生じるアイソフォームが複数存在していることが明らかになってきている。そこで、アイソフォームの有無をさらに調査する予定である。 【ホルモンシグナリング遺伝子の機能解析】上記のようにフジコナカイガラムシにおいて、二本鎖RNAの注射によりノックダウンを引き起こすRNAi法を試行している。今後もこれを引き続き行い、種々の因子の機能解析を行っていく予定である。もしカイガラムシにおいてRNAi法でのノックダウン効率が低いことが判明すれば、他種昆虫で最近実施されているTALEN法などによって遺伝子ノックアウトを試みる。 【フジコナカイガラムシの体内に含まれるJH濃度の調査】上記のように、JH生合成酵素の発現変動から体内JH濃度の推定を行い、雌雄でJH濃度が異なっているという重要な知見が得られた。そこで今後は実際にLC-MS/MSを用いた機器分析を実施し、JH濃度を調べる予定である。
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Research Products
(1 results)