2014 Fiscal Year Annual Research Report
シグナル伝達ネットワークの力学系的特性とその進化の理解
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14F04811
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金子 邦彦 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30177513)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
YOUNG Jonathan 東京大学, 総合文化研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | シグナル伝達系 / ロバストネス / 力学系 / 応答 / 敏感性 / MAPキナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
シグナル伝達系は外界の入力に対し敏感に、しかし安定した応答を示す。これまで、定常状態の安定性は盛んに調べられているが、応答の場合は、時間変化が、外部の影響に対して安定であることが重要である。それでは、シグナル伝達系はいかにして敏感かつ安定した動的応答を示すのだろうか。 この理解のために、まず、酵素反応の基本であるミカエルメンテン方程式に立ち返り、シグナル伝達系の基本モデルとしてMAPKカスケードを採用し、我々がすでに展開している酵素競合律速のアイディアもふまえて解析した。これは外部刺激により下流でリン酸化過程が進行し、その活性化がカスケードとして伝わるというものである。微分方程式のシミュレーションの結果 (1) 外部刺激に対する応答として、途中でプラトーが生じること (2) その緩和過程、たとえば緩和時間が外部パラメタの変化に対してあまり変わらないという動的ロバストネスを示すこと を発見した。そして、このメカニズムを線形安定性解析とヌルクラインの性質により明らかにした。以上はまず、1段のカスケードに対して示したものであるが、これを多段反応への拡張したものとしてHunag-Ferrelモデルを採用し、プラトーと動的ロバストネスがより明確にあらわれることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
11月末に来日、研究態勢を整え、まず日本での研究環境の設定を行い、Young氏はすぐに慣れて研究を開始した。すぐに、Young氏がこれまですすめてきたシグナル伝達系のモデル方程式があるので、それをふまえてMAPKカスケードの微分方程式モデルのシミュレーションを行って、遅い緩和過程が現れるかを調べ始めた。準備を進めてきたこともあり、1ヶ月以内に遅い緩和の結果を得て、さらにそれをもとにして (1) 緩和過程が、単純な指数関数でなく、途中にほぼ変化しないプラトー領域が生じること (2) 次に、関連する外部パラメタ、たとえば反応レートをかえたときに、その外部パラメタの変化の広い領域に対して緩和時間があまり変わらないという、「動的ロバストネス」を示すこと を発見した。特に、後者は、時間変化のロバストネスという新しい概念を導入したことになる。これにより、シグナル伝達ダイナミクスのロバストネスの理解という目標達成のための重要な基本概念を獲得したことになる。さらに、このメカニズムの力学系解析を行い、線形安定性によってその安定多様体、ヌルクラインの性質によって説明することに成功した。それにより、シグナル伝達ネットワークのモチーフにどのような構造があれば、上の2つの特性があらわれるかを明らかにした。以上は、1段階の伝達系でまず示したしたものであるが、これが多段階においてもなりたち、より複雑な応答のロバストネスを実現することを示した。これにより、上の基本モチーフの組み合わせで細胞内の動的マシンを構成する道をひらいた。 現在、この結果を論文にまとめており、原稿はほぼ完成している。まもなく投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、単純なネットワークを用いて、ロバストな動的機能理解のための基本概念の一つを獲得した。しかし、シグナル伝達系は段階的かつ並列な触媒反応により行われている。それでは、なぜ、こうしたパラレルな反応ネットワークが敏感かつ安定した機能に必要なのだろうか。そこで、これまでに求めた基本ネットワーク・モチーフを直列、並列にくみあわせた反応系を扱い、それぞれでどのような動的特性があらわれるかを明らかにする。その上で、シグナル伝達系でしばしばみられる、多入力をいったん集積させてまた分配する構造がどのような意義を持つかを明らかにする。さらにこのシグナル伝達系のノイズに対する安定性を明らかにする。そのうえで、最終的にはこのようなシグナル伝達系などの生物ネットワークの特徴、そしてそれがいかに進化により形成されうるかを進化的安定性も含めて明らかにする。 これと関連して、我々が見出した基本的仕組みは、遅いプロセスとして、長期の状態保持がつくられることを示唆する。これは細胞の持つ、動的記憶過程とも関係する。この仕組みをベースにして、より多数の情報の記憶維持、その操作の理論基盤を整える研究も行う。
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