2014 Fiscal Year Annual Research Report
フォトニック結晶導波路での超高速動的スローライトチューニングとその応用
Project/Area Number |
14J00060
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
近藤 圭祐 横浜国立大学, 工学研究院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 半導体光制御 / 高速光制御 / 光導波路 / フォトニック結晶 / 非線形光学 / スローライト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、CMOS互換プロセスを用いてシリコンフォトニック結晶導波路を製作し、それにより生成されるスローライトの物理を探求する。特に、本研究では2つのスローライト間の相互作用を利用した光制御を動的スローライトチューニングと呼び、これまでに超高速遅延チューニングと断熱的波長変換を実証してきた。本年度はさらに、非線形効果によるスペクトル拡大を伴う光パルス圧縮と、光による光反射を用いた巨大なドップラーシフトを提案、実証した。 光パルス圧縮も過去の機能と同様に信号用と制御用の2つのスローライトパルスをフォトニック結晶導波路に入力する手法を採る。ここでは制御パルスの非線形効果による信号パルスのスペクトル拡大と、フォトニック結晶導波路による分散補償を適切に組み合わせることで、通常、シリコンの導波路では難しいとされるパルス圧縮を実現した。本手法により入力時13.3 psの信号パルスを1.4 psまで圧縮し、オンチップパルス圧縮としては過去最大のパルス圧縮率9.9を記録した。 光による光反射を用いたドップラーシフトでは信号パルスと制御パルスをフォトニック結晶導波路の両端から向かい合わせに入力する。制御パルスは非線形効果によりフォトニックバンドギャップを周波数シフトさせ、信号パルスが進入できない領域を移動させる。つまり、制御パルスが移動する鏡となり信号パルスを反射させる。このような光による光の反射は、世界的にも議論されて来なかった新しい物理であり非常に興味深い。さらに、本手法では反射鏡の移動速度が準光速で非常に速いため、一般的には実現困難な数10~数100 nmという巨大なドップラーシフトが期待される。本研究では時間領域有限差分法に基づくシミュレーションを行い、提案したドップラーシフトが確かに起こり、数10~数100 nmの波長シフトが得られることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は本研究で提案しているフォトニック結晶導波路における動的スローライトチューニングの研究を進め、昨年度まで研究していた断熱的波長変換機能を論文としてまとめ上げ、Physical Review Letters誌に掲載された。さらに、本年度は動的スローライトチューニングによる別の機能として、スローライト増大された非線形効果によるスペクトル拡大を用いた光パルス圧縮機能を主に研究してきた。この研究では、通常、パルス圧縮を実現するには非効率とされるシリコンの導波路を用いているにも関わらず、オンチップパルス圧縮としては過去最大のパルス圧縮率9.9を記録した。この結果もPhysical Review Aに論文掲載され、また、国際会議で1件の口頭発表と1件のポスター発表を行うなどの成果を上げた。これらと並行して時間領域有限差分計算を用いてフォトニック結晶導波路の構造最適化を進めた。これにより従来およそ5 dBあったフォトニック結晶導波路の過剰損失を3 dB以下まで低減することに成功し、同様の結果を実験的にも確認した。この改善は動的スローライトチューニングの高性能化に大きく貢献すると考えられる。 以上の研究が順調に推移したこともあり、本年度はさらに、光による光反射を用いた巨大なドップラーシフトを新たに提案し、時間領域有限差分法を用いたシミュレーションによりこれを実証することに成功した。この研究は、そもそも光によって光を反射するという現象自体が物理的に興味深い上、これまでにない大きな波長シフトを実現し得るという機能的側面の期待度も高い。 以上の成果より、本年度の研究は期待以上の進展があったと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、光による光反射を用いたドップラーシフトの実験的な実証を目指す。このドップラーシフトは過去に本研究で提案、実証してきた動的スローライトチューニングと似た実験要領で実現できるため、早期の実証を期待する。ただし、この実験に適したフォトニック結晶導波路デバイスが必要であるため、まずはその設計、製作から始める。 また、これまでの研究でフォトニック結晶導波路の構造最適化により過剰損失を低減することに成功しているため、これを利用して過去に実証してきた動的スローライトチューニングの高性能化を目指す。具体的にはまず、当初の計画通り動作パルスエネルギーの低減を目指す。これにはスローライトのさらなる低群速度化も有効であり、それも併せて動作エネルギーの高効率化を狙う。現状、動的スローライトチューニングにおける動作エネルギーは1つのパルスあたり数10 pJであるが、これをサブpJ級まで低減させる。次に、従来手法では短波長化しか起こせなかった断熱的波長変換の長波長化機能の実現を目指す。これまでに短波長化しか起こせなかったのは、断熱的波長変換に必要な屈折率変化を制御用スローライトによる自由キャリアの生成でしか誘起できなかったからである。一方、CMOS互換プロセスによってフォトニック結晶導波路に施せるpnダイオードを逆バイアス動作させれば、自由キャリアを引き抜いて消滅させられるのでこれまでとは逆の長波長化が可能になると考えられる。これを実現するためのデバイスは既に製作済みであるため、上記の研究と並行して実験的実証を目指す。
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Research Products
(4 results)