2014 Fiscal Year Annual Research Report
複雑ランドスケープ描像に基づく遺伝子ネットワークの制御
Project/Area Number |
14J00081
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 仁彦 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | レプリカ対称性の破れ / ブラウン運動 / 異常拡散 / スピングラス / 非平衡 / KPZ方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はレプリカ対称性の破れと呼ばれる概念が重要な役割を果たす非平衡現象の探索を行った。レプリカ対称性の破れは平衡状態における平均場スピングラス模型の低温相を記述する概念である。一般にスピングラス模型は低温においてランダムな方向に凍結するので特定の方向へのオーダーパラメータを用いて転移を捉えることはできない。一方、ハミルトニアンを共通とする二つの独立な系(レプリカ)を用意した時、低温においてはこれらが複数の安定な配置の一つに凍結するために、二つの系の配置の類似性(重なり)を見た場合その分布は非自明な関数形をとる。このように本来は独立に導入されたはずのレプリカの間に非自明な相関が生じるためにこの現象はレプリカ対称性の破れと呼ばれる。レプリカ対称性の破れは複数の安定な状態が存在する系の記述における基本的な概念となり得ると期待される。 ところで、細胞分化などの例に見られるように、自然界においては複数の安定な軌道が現れるダイナミクスの存在が知られる。本研究ではこのようなダイナミクスのうちレプリカ対称性の破れが重要な役割を果たす現象の探索を行った。その結果、少なくともnoisy Burgers方程式に従う速度場に駆動されるブラウン粒子の軌道においてはレプリカ対称性の破れが生じていることを数値・理論の両面から示すことができた。近年では細胞内における生体分子の輸送など揺らぐ環境における輸送現象が注目を集めているが、本研究は重なりを用いて初めてその異常性を捉えられるような新しいクラスの異常拡散を発見したことになる。本結果は学会等で発表を行い、論文としても現在投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レプリカ対称性の破れの概念を非平衡ダイナミクスの記述に持ち込むことに成功したことが本年度の最大の成果である。これはスピングラス理論の概念を用いて遺伝子ネットワークという動的なシステムの記述を行うという本来の目的においてまず最初に解決しなければならない問題であった。この問題の解決を比較的綺麗な形で行えたことは非平衡統計力学の観点からは大きな進展であると考えられる。一方、遺伝子ネットワークのような本来興味のあった設定におけるレプリカ対称性の破れの意義の考察に関しては現段階では行えていない。この二点を踏まえ、本年度の達成度はおおむね順調であると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
27年度は遺伝子ネットワークにおけるレプリカ対称性の破れの有無を確認することを目標としたい。26年度に開発された軌道のレプリカ対称性の破れを捉える方法を用いて、具体的な化学反応ネットワークモデルを数値的に研究する予定である。さらに、これらの発展的課題として非平衡ダイナミクスの制御の問題に取り組む。
|
Research Products
(2 results)