2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J00160
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今田 弓女 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 生物間相互作用 / 植食性昆虫 / 分子系統 / 記載分類 / 陸上植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在の地球上では植物を餌とする昆虫が地球上の既知の生物の1/4以上を占めていると言われる。約5億年前に陸上に進出して以来、植物は、外敵との攻防の末に多様な防衛手段を獲得してきたが、一部の昆虫はそうした防衛形質に適応し莫大な資源を利用する可能性を手にいれた。植食性昆虫の系統が食草との関係の中で放散したことを示した例は多い一方で、地質年代を跨ぐほど長い時間スケールにおいて植物と昆虫の関係がどのように生じ、変化してきたかについてはあまり分かっていない。 コケ植物は最初に分岐した陸上植物であり、被子植物に比べて植食者が非常に少ないと考えられている。しかし近年、コケと関係の深いいくつかの昆虫の系統が日本に広く分布することが明らかとなってきた。これらコケ食昆虫を対象に、形態分類と生態解明を行った上で分子系統解析を行うことで、コケ食昆虫の多様性と種分化機構の解明に取り組んでいる。 広義のシギアブ科(双翅目)は、幼虫期に肉食性から植食性に至る多様な食性をもつため、いかなる食性から植食性を獲得したかを推定する上で優れている。ところが本科は、多くの種の生活史が未知であるだけでなく、分類学的に議論が多いグループである。本年度は、このグループに含まれるLitoleptis属を中心に国内で採集し、食性の解明と形態分類を行った。結果、系統的位置が長らく不明であった本属がSpaniidaeに属するという見方が強く支持された。また、本属は生態未知であったが、6新種すべての生活史が明らかとなり、各種はそれぞれ1属の苔類のみに潜葉する専食者であることが分かった。これらの種は互いに異所的に分布しており、またミトコンドリア遺伝子系統樹において単系統となった。 さらに、シギアブ科を対象とした分岐年代推定から、本科におけるコケ食者は中生代に既に生じていたことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、野外観察と飼育実験によるコケ食昆虫の生態解明を進めており、特に希少なコケ食昆虫であるシリブトガガンボの生態に関する新しい知見を積み重ねつつある。本年度はコケ食昆虫(コバネガ、シギアブ)の成虫を用いた行動実験により分散能力の測定を行う計画であったが、対象生物の飛翔行動が著しく測定困難であったため、分子系統について重点的に研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの海外調査の知見の蓄積により、コケ食のシギアブは東南アジアおよびアメリカ大陸にも分布していることが明らかになってきた。次年度は、シギアブのより網羅的な分子系統解析によって、世界的規模での食性の進化と、本科において植食性が獲得された年代の推定を行う予定である。また、食草であるコケ側の分子系統に基づくコケの分岐年代とそれを比較することによって、コケとシギアブの相互作用の進化的変遷の再構築を試みる。また、シリブトガガンボ科に関しても国内外のサンプルを用いた分子系統解析を目指して採集、生態調査を継続する予定である。 加えて、コケ食昆虫の群集には、卓越する分類群やフェノロジーの観点で、被子植物食昆虫とは異なる特徴があることが近年分かってきた。これを詳細に調べ、被子植物食昆虫の群集と比較することで、昆虫が植食性を獲得する背景に関わる要因を推定する予定である。
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Research Products
(3 results)