2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J00160
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今田 弓女 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 記載分類 / 口器形態 / コケ食 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)東北地方に固有のコバネガ科の新種発見 コバネガ科は現生の鱗翅目の中で最も古い系統であり、その幼虫はコケ(とくにタイ類)あるいはデトリタスを食べる。東北地方での網羅的な野外調査により、これまでコバネガ科の採集記録が非常に少なかった東北5県の各地で、ジャゴケを餌とするコバネガを新たに発見した。これらの種は地域固有の未記載種である可能性が高い。 (2)コケ食シギアブの新種記載および生活史全容の解明 白亜紀から化石の知られているLitoleptis属のシギアブ6種を日本から新たに記載し、そのコケ食の生態を初めて報告した論文が国際誌に受理された。また、成虫の生態があまりわかっていないコケ食のシギアブ科(双翅目)3種の野外での産卵行動を観察し、成虫は食草であるコケに直接卵を産み付けるが、その産卵習性は属間で異なることが明らかになった。この成果は投稿間近である。 (3)コケ食シギアブの幼虫の特異な形態とその機能への示唆 上記のコケ食シギアブ類の幼虫の形態を記載した。特に幼虫の口器形態を観察したところ、他の原始的なアブ類には見られない特異な形態を持つことがわかった。捕食性の幼虫では鋭く尖った長い下顎を獲物に突き刺し、下顎口辺にある溝を利用して体液を吸汁するのに対し、植食性シギアブでは下顎が短く、多くの突起を生じ、発達した溝が下顎の背面に大きく開口していた。これは植食者が吸汁型という基本的な特性を維持しつつ植物組織の吸汁に適した構造をもっていることを示唆する。さらに摂食行動の観察から、潜葉性のシギアブ類は咀嚼と吸汁の両方の過程により餌を食べることがわかった。また、幼虫の形態を基にSpaniinae亜科の共有派生形質と、コケ食者3属の識別形質を新たに見出した。この成果は投稿間近である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コケ食昆虫の探索をこれまでと異なる時期・地域で行うことで、予想を上回る多くの発見が得られた。まず、東北地方での網羅的な野外調査により、各地でジャゴケを餌とする新種のコバネガを発見した。また、成虫の生態が不明の植食性のシギアブ科3属3種の野外での産卵行動を観察することができ、卵から成虫に至るまでの生活史全体を把握できるようになった。加えて、これまで採集が技術的に難しかったシリブトガガンボ亜科の幼虫を全国各地で採集することに成功し、その生態解明をさらに推し進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
一連の成果により、これまで扱ってきたコケ食昆虫(コバネガ科、シギアブ科、シリブトガガンボ亜科)の生活史や行動が詳細に分かってきた。全体として、今後は十分な数の標本が揃っている新種から記載論文の執筆準備を進めつつ、野外調査にも励んでゆきたい。とくに、シリブトガガンボ亜科は網羅的なサンプリングにより、国内外のサンプルを用いた分子系統解析の準備が整いつつある。世界規模でのシリブトガガンボ亜科の系統関係とその生態進化の解明を目指したい。さらに、このグループを対象に、幼虫の口器・消化管形態が食性の違いをどのように反映しているか等を調べたい。
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Research Products
(4 results)