2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J00177
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川崎 唯史 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | メルロ=ポンティ / 現象学 / 身体 / 間主観性 / 役割 / 社会 / 植物性 / 人間性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『知覚の現象学』以降の中期メルロ=ポンティの著作および講義録の検討に着手し、身体性と間主観性に関していくつかの成果を得た。 まず身体性については、ソルボンヌ講義「他者経験」における役割を演じることに関する記述に注目し、サルトルの『想像力の問題』に対するメルロ=ポンティの同意点と異論を確認しつつ、身体がいかに想像的な役割へと自ら非現実化するかを考察した。その上で、『ヒューマニズムとテロル』などに見られる、社会生活における役割の問題に関する論述に議論を接続し、歴史の中で課された役割を引き受けることと自己を保つこととの関係をメルロ=ポンティがどのように捉えているかを考察した。演技の問題は身体性と間主観性の結節点をなすものであり、論文化するには至らなかったものの、この問題に関して一定の見方を与えられたことは今年度の成果の一つである。また、睡眠や呼吸といった身体の不随意な側面に関する研究も進め、「植物的な身体性の現象学」と題して国際会議にて現時点での成果を発表し、海外の現象学研究者からも高い評価を得た。なお、『感性的世界と表現の世界』講義の精査に関しては、若手の現象学研究者らとの検討会を開始して精査を行っており、次年度には何らかの成果を公表できる見込みである。 間主観性については、『ヒューマニズムとテロル』や『意味と無意味』といった著作と『知覚の現象学』との理論的な連関を示しつつ、多数の人間の共存としての社会生活がもつ優位を明らかにし、論文として公表した。これは本研究の間主観性に関する基本的な立場であり、これによって次年度以降の研究の理論的な基礎を得られた。また、戦後の著作に見出される「英雄」を社会生活の特異なあり方として分析し、日本メルロ=ポンティ・サークルの大会において成果を発表した。こうした作業を通じて、前期の著作と中期の著作の内的な連関を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に挙げた計画のうち、論文投稿や口頭発表に関するものはほぼすべて実行することができた。講義録の検討はやや遅れているが、次年度の研究によって取り戻せる程度の遅れであり、深刻なものではない。なお、当初の計画にはなかったが、最近出版された中期の講義録である『言語の文学的使用についての研究』の検討も行っており、その点も考慮すれば研究の遅れというよりも研究すべき内容そのものの増加と言う方が適切である。 『知覚の現象学』における誕生の問題に関する論文を投稿することも今年度の計画に入れていたが、今年度は博士予備論文の提出と重なったという事情もあって次年度に延期することとなった。しかしこれは当初の計画にはなかったものであるため、研究課題の進捗状況を左右するものではない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は中期の思想の検討に着手できたものの、メルロ=ポンティの生前に刊行されたテクストが主な検討対象となったため、次年度はソルボンヌ講義および『感性的世界と表現の世界』、『言語の文学的使用についての研究』講義の研究にいっそう注力したい。また、身体性に関する重要な先行研究であるサントベールの『存在と肉』の検討も行い、研究を高度化させる。 間主観性に関しては、予定通りにモンテーニュ論とマキアヴェリ論の精査を進め、成果の公表まで行いたい。 以上の二点を行った上で、本研究の締めくくりとして、中期メルロ=ポンティにおける人間性の構想を再構築し、前期・後期のそれとの関連と差異を可能な限り明らかにすることを目指す。この課題に関しても、講義録の精査から得られた成果を最大限に活かすことが必要となる。
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Research Products
(10 results)