2014 Fiscal Year Annual Research Report
高輝度放射光並びに中性子プローブによる金属イオンのゲル液二相分配ダイナミクス解明
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14J00202
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
中瀬 正彦 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ゲル液抽出法 / ランタノイド分離 / 錯体化学 / ゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は配位子を化学的に取り込んだゲルを用いたイオン分離に関する研究である。使用済み燃料の再処理における金属イオン分離では、有機相と水相を用いる液液抽出法が用いられるが、大量の有機溶媒の利用や第三相形成の問題がある。一方で抽出剤を架橋剤・モノマーとして組み込んだゲルと水相を用いるゲル液抽出法では配位子の溶出がないため、低環境負荷型の金属イオン分離プロセス構築が可能と期待される。また、膨潤収縮状態が変化するゲルようマトリックスに配位子を取り込むと、ゲル中の水環境や配位空間の変化が錯形成挙動に影響して液液抽出とは異なる金属イオン分離挙動が見られる場合がある。しかしゲル中の配位子と金属イオンの錯形成に及ぼす諸因子の影響、液液系とゲル液系の錯形成挙動の差異といった基礎的な知見と理解が不足している。本研究ではランタノイドの相互分離系を対象とし、単結晶X線構造解析や放射光XAFSにより抽出剤の電子状態や錯体構造を、中性子プローブでゲルの構造や配位子導入状態を調査し微視的・巨視的な知見に立った構造の情報を取得する。これと共に金属イオン分配挙動(液液系、ゲル液系)ならびにゲルの化工物性との相関を明らかにし、金属イオンのゲル液分配ダイナミクス解明を目指す。これにより、ゲルの制御によってユニークなイオン分離が可能となると期待される。 H26年度は配位子の有機合成から開始し、単結晶X線構造解析、放射光XAFS計測・解析により液液系での多座Nドナー、N,Oヘテロドナー配位子とランタノイドシリーズとの錯形成挙動と構造に関する知見を取得した。UV滴定による錯形成定数の取得とあわせ錯体構造と配位強さの相関を調査し会議や論文で報告した。配位子への重合性官能基の導入したゲル合成スキームの整備も進めた。各種計測手法とその理論背景の習得も努め、H27から液液系とゲル液系の錯形成挙動の差異を詳細に調査する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
液液抽出でのランタノイド/アクチノイド分離のための多座N,Oヘテロドナー配位子であるN-alkyl-N-phenyl-1,10-phenanthroline-2-carboxamide (PTA)の新規誘導体をはじめとし、必要な原料の合成スキーム整備や大量合成を実施した。錯体構造と配位強さの相関を調べるため、有機合成した配位子や種々の多座配位子とランタノイドシリーズとの単結晶を取得し、X線構造解析、SPring-8のBL11XUを用いた放射光XAFS計測等によって錯体構造を調査した。また、UV滴定と解析により錯形成定数(配位強さに関する情報)を系統的に取得した。単純な多座Nドナー系配位子はランタノイドと主に静電的相互作用で錯形成し、ランタノイドイオン半径の変化に従い錯体の幾何構造(結合長や結合角)が線形的に変化し配位強さが決定されること等が示唆された。配位子に重合性官能基(ビニル基やアミド基)を導入する合成スキームの整備をすすめ、これらを用いて重合性官能基付き配位子を搭載したハイドロゲルを作成した。初年度は液液系を中心に研究を進めており溶液系での錯形成に関する知見が多数得られたが、ゲル中の配位子導入状態や錯形成挙動の評価までは踏み込めていない。さらに、高分子の評価に必要な小角散乱系の理論の習得のために種々のワークショップやコロキウムに参加し、またJ-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)でのスクールに参加して中性子小角散乱実験手法とデータの取り扱い、解釈方法を学んだ。これらの理論背景を基にゲル中の配位子導入状態の考察も進めていく予定である。これらにより配位子の導入状態と合わせてゲル液系と液液系での錯形成挙動の差異を理解し、ランタノイドシリーズの抽出試験と合わせて系統的にまとめ、ゲル液抽出法の高度化を目指してゆく。以上、計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も配位子や重合性官能基を付与した配位子を搭載したゲルといったマテリアルの有機合成を継続しながら、合成物の物性・性能の調査を進めていく。前年度までで錯体構造と配位強さの相関など配位子設計上も重要な知見が得られてきているため、これらも考慮し合成する化合物を決定する。また、ランタノイドシリーズと配位子との錯体の単結晶構造データと錯形成定数の取得も進め、溶液系の錯形成とイオン認識に関する知見の蓄積を進める。加えて今年度はゲル液系に踏み込んでいく。液液系で得られている知見に加えて放射光XAFSによってゲル中での錯体構造の情報を取得し、液液系とゲル液系の錯形成挙動の差異を調査する。また、同じ配位子でもゲルへの導入状態が異なれば錯形成や性能が変化すると考えられるため、小角散乱系の実験により配位子のゲル中への導入状態の評価も試みる。合成したゲルの化工物性も工学的に重要であり、ランタノイドシリーズの抽出分離試験を行って知見を系統的にまとめていく。得られた知見は配位子やゲルの合成に生かしていく。 本年度も実験に加えて積極的に学会やコロキウム、スクールに参加して周辺分野の新しい知見の蓄積や新しい実験・計測手法の理解を深めていく。また、研究成果は逐次学会や論文にて報告する。
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Research Products
(4 results)