2015 Fiscal Year Annual Research Report
多結晶体電極表面における異方性腐食挙動のデジタル電気化学
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14J00231
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高畠 勇 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 表面・界面 / 電気化学 / 腐食科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、微小電気化学法により多結晶鉄電極の局部反応機構を解明し、微小電気化学と従来のマクロ電気化学を有限要素法を用いて結びつけるデジタル電気化学という新しい腐食科学の理論を構築することを目的とする。本年度は、多結晶純鉄上で進行する不均一腐食反応の解析を目的として、高温の空気中で形成した熱酸化皮膜の不均一腐食挙動を検討した。 多結晶純鉄基板を空気中300℃で1時間焼成したところ、金属組織ごとに色の異なる熱酸化皮膜が形成した。断面SEM観察および二次元エリプソメトリーを用いて皮膜の厚さを測定した結果、色のばらつきは膜厚の不均一性に由来した光の干渉色であることがわかった。得られた膜厚を逆極点図上にプロットし、素地鉄の結晶方位に対する皮膜の等厚線図を得ることに成功した。等厚線図を描くことで、特定の結晶面のみならず全ての結晶方位について定量的に膜厚不均一性を捉えることが可能となった。エリプソメトリーの測定結果を解析したところ、二層構造を有する酸化物皮膜において外層α-Fe2O3の厚さは試料上でほとんど変化しない一方で、内層Fe3O4の厚さは顕著な結晶方位依存性を示した。すなわち、熱酸化物の厚さにおける不均一性は内層Fe3O4の異方性成長に大きく依存することが明らかとなった。 熱酸化物が形成した試料を中性ホウ酸塩水溶液中で定電流還元し、酸化物の溶解挙動における不均一性を検討した。具体的には、電気化学セルと二次元エリプソメータを組み合わせ、皮膜溶解に伴う試料表面の変化を二次元エリプソメトリーによりその場観察した。定電流還元中、エリプソメータにより測定される光学値は皮膜の還元除去に伴い変化した。このとき、光学値は素地鉄の結晶方位ごとに異なる変化挙動を示し、皮膜の溶解が素地鉄の結晶方位に依存して不均一に進行することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
純鉄上に形成した熱酸化皮膜の素地結晶方位依存性は従来、単結晶基板を用いた実験を通して議論されてきた。本研究では二次元エリプソメトリー法を用いることで、熱酸化皮膜の厚さおよび構造に与える素地結晶方位の影響を多結晶基板を用いて議論することに成功した。その結果、単結晶面を得ることのできる低指数面のみならず、高次の指数面を含めた全方位的な結晶方位依存性の解析を行うことが可能になった。加えて、二次元エリプソメータと電気化学セルを組み合わせることで、多結晶純鉄上に形成した熱酸化皮膜の定電流還元挙動をその場観察することに成功した。エリプソメトリーにおける光学パラメータの変化が素地鉄の結晶方位ごとに異なるなど、多結晶鉄の異方性腐食挙動を検討する上で重要な知見を得ている。 本年度は上記の研究成果を国際学術誌にて発表することがかなわなかったが、現在、論文の受理に向けた準備を着々と行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
多結晶純鉄上に形成する熱酸化皮膜について、素地鉄の結晶方位が皮膜の構造および還元挙動へ与える影響を英語論文にまとめ、国際学術論文誌へ投稿する。続いて、その場二次元エリプソメトリー法を多結晶純鉄のアノード酸化へと応用し、不働態皮膜の形成・溶解挙動における結晶方位依存性を議論する。さらに、電解質溶液を交換しつつ電気化学測定が可能なフロー型電気化学セルを構築し、多結晶純鉄を構成する多くの結晶粒・結晶面方位を対象に溶解速度、水素発生速度などの定量分析を行う。これらの研究成果を国内および国際会議にて発表する他、論文を国際的な学術論文誌へと投稿し、博士論文研究を完成させる。
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Research Products
(5 results)