2014 Fiscal Year Annual Research Report
大規模数値シミュレーションを用いた局所銀河群形成過程の解明
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14J00348
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
桐原 崇亘 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 天文学 / 銀河進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, アンドロメダ銀河のハロー領域に発見された, 衛星銀河との衝突の痕跡(アンドロメダストリーム)を用いた, 局所銀河群の形成・進化の解明を目的としている。 アンドロメダ銀河は近傍であるがゆえ, 詳細な観測が可能であり, 理論研究と観測研究を組み合わせることで, 銀河の形成・進化を確認・検証可能な格好の実験場である。特に, アンドロメダストリームは, アンドロメダ銀河の円盤の半径の5倍程度伸びた巨大な星の作る構造で, その空間構造や視線速度構造が詳細に観測されている。観測された構造を数値シミュレーションで再現することによって, 矮小銀河の衝突の歴史と局所銀河群の形成過程について解き明かす。 標準的な宇宙大規模構造の形成モデルであるΛCDMモデルが予言する構造の, 銀河スケールでの検証に関わる成果を論文として発表した。この研究では, アンドロメダ銀河に付随するダークマターの質量密度分布に対して, 銀河衝突の数値シミュレーション結果と観測される構造との関係について詳細な解析を行った。その結果は, 観測される構造を再現するモデルにおいて, ダークマターハローの外側の密度構造に関してCDMモデルとのずれを示しており, アンドロメダ銀河中心からの距離が大きくなるにつれて, ΛCDM理論で予測されるよりも早く密度が小さくなることを示唆している。この成果は, 局所銀河群の衛星銀河に関する国際会議, 銀河形成・進化に関する国内外の研究会で発表を行った。 また, 過去にアンドロメダ銀河に衝突した衛星銀河の形態に関する研究を進展させた。この研究では, より複雑なモデルのもと大規模なパラメータサーベイと詳細な解析を行うことで, 現実的な回転成分を持つ矮小銀河の衝突を示唆する結果が得られた。この成果については投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究の主要な進展として, アンドロメダストリームの母銀河である, 過去にアンドロメダ銀河に衝突した衛星銀河の形態を調べるため, 円盤成分を持つ矮小銀河とアンドロメダ銀河との銀河衝突シミュレーションを行った。この研究では, 衝突時の衛星銀河の円盤の傾きが衝突後の分布に大きく影響するため, 大規模なパラメータサーベイを必要としている。また円盤の厚さとアンドロメダストリームの構造との関係もシミュレーション結果から議論した。全体で2000パラメータ程度の巨大なパラメータサーチを行い, アンドロメダストリームの観測データから得られる特徴的な内部構造を説明するためには, 衝突した衛星銀河の回転成分が重要であることや初期の傾け方に対する制限が得られた。また, 観測される形状を再現する衛星銀河の形態は, 近傍で観測される矮小銀河の性質とも共通するところがあるという結果が得られた。さらに, 局所銀河群に存在する矮小銀河に対する情報を整理し, 本研究で想定している過去に衝突した衛星銀河との関係性についても執筆中の論文にまとめている。 なお, 大規模計算のためのコードに関しては, 整備中である。 26年度8月下旬から3週間程度の間, ドイツに滞在し, ミュンヘン天文台では現地の研究者との意見交換を行うとともに, 国際会議期間中には研究に必要な情報収集を行った。とりわけ局所銀河群の形成進化に関わる近年の研究の進展と展望に対する情報を集め, 27年度の研究にも取り入れていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
アンドロメダ銀河で観測された銀河衝突の痕跡を数値シミュレーションで再現することは, 近年の局所銀河群の衛星銀河で指摘されている特徴的な分布と組み合わせることで, 1つの矮小銀河の衝突の歴史を読み解くだけでなく, 局所銀河群スケールでの歴史を紐解く上で重要なツールとなる可能性を秘めている。 当初予定していた通り, 本研究によってアンドロメダ銀河に衝突した矮小銀河の形状についての制限が得られた。今後はこの銀河衝突がアンドロメダ銀河へと与える影響について調査していく。 初年度の観測データの再現に成功したN体系の数値シミュレーションによって, 矮小銀河の衝突ならではと考えられる構造を得ることができた。より詳細な解析を行うために, 粒子数を1桁程度上げたシミュレーションを行う準備を進めている。当初予想していなかった情報が得られたので, この計算に関しては, 予定を変更して行うことになる。しかし, 得られる情報は局所銀河群の形成に留まらず, 宇宙の構造形成においても重要な情報となりえ, 目的から逸れることはない。 また, 当初の計画通り, N体系のみならずガスの運動も考慮した流体入りの銀河衝突シミュレーションを行うための準備を予定している。
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Research Products
(8 results)