2015 Fiscal Year Annual Research Report
次世代的排水処理法の実現に向けた微生物間コミュニケーション制御技術の構築
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14J00384
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
清川 達則 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 微生物間コミュニケーション / マイクロフルーディクスチップ / 微生物集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では微生物間コミュニケーションを利用した排水処理効率の向上を目指し、ミクロ領域での微生物間コミュニケーションを解析することで微生物の代謝を直接制御する技術の構築を最終的な目的としている。二年目である本年度は「マイクロフルーディクスチップを用いたシグナル伝達の解析系の構築」を目的として研究を行ってきた。 これまでに、マイクロメータースケールのパターン形成技術を習得し、シリコン樹脂にマイクロ流路を作製したマイクロフルーディクスチップを開発した。このマイクロフルーディクスチップを用いることで、レイノルズ数が一定値以下の場合にのみ生じる、2つの溶液が互いに混ざり合うことなく流路中を流れる現象を利用できる。つまり、一つの流路内に二種類の異なる溶液を供給することが可能となる。この現象を応用することで、一つの微生物集団に対して局所的に異なる環境を作り出すことが可能となる。 微生物間のコミュニケーションに用いられているシグナル物質を検出すると蛍光タンパク質を生産するシグナル検出株を作製した。本菌株の微生物集団を上記のマイクロフルーディクスチップ内部に形成させ、その集団の一部にシグナル物質を供給することで、微生物集団内部のシグナル物質の伝播の観察を試みた。まず、微生物集団を流路内部に形成させるために、流路内部をカチオン性の薬剤でコートし、微生物の接着性を高めた。次に、流路内部の顕微鏡観察を行った結果、マイクロ流路内部に形成された微生物集団の一部に対してシグナル物質を供給することに成功し、シグナル物質が供給された微生物集団の一部で蛍光タンパク質の発現が見られ、時間経過にしたがって徐々に蛍光が広がっていく様子が観察された。現在は得られた画像データから、微生物集団内部におけるシグナル伝達の解析を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、「マイクロフルーディクスチップを用いたシグナル伝達の解析系の構築」を目的に、異分野の技術であるマイクロフルーディクスチップの作成技術を習得し、応用する計画であった。本年度までに、マイクロフルーディクス技術を用いた動物細胞の解析で既に実績がある、筑波大学数理物質科学研究科鈴木博章教授の研究室でマイクロフルーディクス技術のトレーニングを受け、基礎的な技術を習得した。さらに、マイクロフルーディクスチップを微生物に対して適用するために、流路内部のコーティングや付着性を高めるパターン形成を行うなど実験目的に即した応用も行っている。 技術の習得の他に、自身で作成したマイクロフルーディクスチップを用いて一定の培養条件で長時間の微生物の培養を行い、微生物の定着および微生物集団への成長過程を観察するなど、マイクロフルーディクス技術という異分野の技術を微生物分野に適応することに成功した。それにより、本研究の目的であるシグナル伝達の解析系の構築に必要不可欠な微生物集団中におけるシグナル伝播の可視化にも成功した。しかしながら、シグナル伝達の解析にあたり、データの質・量が不足しているといった問題点もある。現在では既に本問題点を解決するための方策を考案し、実験を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のこれまでの成果により、微生物間コミュニケーションの時空間的な可視化系の構築および、マイクロフルーディクスチップを用いた微生物集団中のシグナル化合物の伝達の可視化に成功した。しかしながら、シグナル伝達の速度・距離の解析を行うにはデータの蓄積が足りていない。また、本実験系は単一微生物集団におけるシグナル伝達の可視化に限定的であり、複合微生物系である活性汚泥内部におけるシグナル伝達の解析が行えていないことも現在の課題である。これらの課題はマイクロ流路内部における微生物集団の定着性に再現性がとれないことに問題があると考えている。そこで、まずはマイクロ流路内部に微生物を安定的かつ効率的に定着させる微生物トラップパターンの作製を優先的に進める予定である。これは過去の報告で、動物細胞の細胞の定着に用いられている細胞トラップパターンを参考にし、既に微生物用のトラップパターンの設計までは行っている。 次に、上記で構築される解析技術を用いて、シグナル伝達の速度および伝達可能距離の最適化を行う。シグナル化合物単独または担体に吸着させたシグナル化合物を層流で局所的に供給した場合の挙動を解析し、シグナルの伝達効率を比較する。また、担体自体の微生物集団への吸着性や局在性、保持時間、シグナル化合物の拡散係数を変化させるために、サイズや電荷、疎水性などの物性を変化させた担体による挙動を解析し、伝達効率の検討を行うことで効率的伝達技術を構築する。 上記までで得られた研究成果の学会発表や特許の取得、学術論文への投稿を精力的に行っていく。
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Research Products
(5 results)