2014 Fiscal Year Annual Research Report
国際連合における拒否権の意義と限界-PKO及び重大な人権侵害の事例を中心に-
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14J00388
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
瀬岡 直 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 拒否権 / 保護する責任 / シリア紛争 / リビア紛争 / 主権 / 人権 / 体制転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年、フランスやいわゆるsmall fiveが提案している重大な人権侵害に関わる拒否権抑制の行動規範(code of conduct)が、国連の目的・原則に照らしてどの程度正当化されるのかを、とくに国連加盟国の発言を詳しく検討することを通じて明らかにすることである。 本年度は、近年生じている人権侵害の中でも最も深刻かつ重大な事例であるシリア紛争における中露の拒否権行使に焦点を当てた。そして、いくつかの学会、研究会で積極的に報告を行い、この問題を様々な角度から検討した。関連する安全保障理事会や総会の審議を詳細に分析することによって、シリア紛争における中露の拒否権行使は国連憲章上違法とまでは言えないけれども、国家中心の平和(state-oriented peace)よりも人間中心の平和(human-oriented peace)を追求し始めている国連の目的から大きく外れるものであることを明らかにした。 これらの研究発表の成果は、「国際連合における拒否権の意義と限界-シリア紛争における中露の拒否権行使に関する批判的検討-」日本国際連合学会編『国連研究(第16号)』(2015年6月刊行予定、校正中)としてまとめることができた。 国連憲章の改正手続を踏まえれば、拒否権制度を定める国連憲章第27条3項の形式的な改正はきわめて困難であると言わざるを得ない。だとすれば、近年の拒否権抑制の行動規範が国連の目的に照らしてどこまで正当化されるかを加盟国の発言から詳細に分析することは、21世紀の国連集団安全保障体制を考える上で必須の作業である。本年度の研究は、こうした大きな問題意識の一部を構成するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主にリビア紛争と比較しつつ、シリア紛争における中露の拒否権行使に焦点を当てて、多くの学会、研究会で積極的に研究成果を発表した。これらの研究報告の成果は、「国際連合における拒否権の意義と限界-シリア紛争における中露の拒否権行使に関する批判的検討-」日本国際連合学会編『国連研究(第16号)』(2015年6月刊行予定、校正中)としてまとめることができた。 また、2015年6月、ACUNS (Academic Council for the United Nations System)の年次大会(オランダ、ハーグ)において、"The Implications and Limitations of the Veto Power in the United Nations: a critical analysis of the use of veto by China and Russia in the case of Syria"と題する英語の報告を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度にシリア紛争における中露の拒否権行使を批判的に検討した結果、明らかにしていくべき課題が浮き彫りになった。今後は、それらの課題の中で最も重要と思われる「保護する責任と体制転換のジレンマ」に関する常任理事国の対応に焦点を当てて、引き続き、重大な人権侵害に関わる拒否権の意義と限界を探りたい。 この問題を掘り下げていくために、真山全先生の論文指導会や京都大学国際法研究会などにおいて、積極的に報告を行う予定である。なお、2015年12月には、アイルランド国立大学ゴールウエイ校において開催される"Taming Power in Times of Globalization: What Role for Human Rights?"と題する研究大会において、シリア紛争における中露の拒否権行使を批判的に検討しつつ、保護する責任と体制転換のジレンマに焦点を当てた英語の報告を行う予定である。すでに、報告要旨は受理されており、今後、およそ半年間で報告ペーパー(8,000字)を作成する。
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Research Products
(5 results)