2014 Fiscal Year Annual Research Report
網羅的ゲノム解析による地域適応メカニズムの解明:適応の分布変遷復元と未来予測
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14J00456
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩崎 貴也 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 局所適応 / 適応遺伝子 / 系統地理 / RAD-Seq / 温帯 / 国際研究者交流 / 韓国 / ロシア |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、アブラナ科タネツケバナ属の草本であるコンロンソウを対象とし、分布域全体からの網羅的なサンプリングと、次世代シークエンサーによるゲノムワイドな遺伝的変異の探索、そしてその変異情報に基づいての適応遺伝子の探索までを目的として研究を行った。 まず、遺伝解析のためのサンプルが不足していた地域(主に、関東、九州、韓国など)で追加の野外調査を行い、約80地点ほどでサンプルの採集を行った。最終的には、昨年度までに採集した分を合わせ、合計で310地点1132個体についてサンプルを得た。これにより、コンロンソウの分布域全体を高密度にほぼ網羅する形で、必要なサンプルを集めることができた。更に、得られた全てのサンプルについてDNA抽出、次世代シークエンサー解析用ライブラリ作成の分子実験を行い、illumina HiSeq 2000の6 lane分を用いてRAD-Seq解析を行った。その後、RAD-Seq解析によって得られた合計約450億塩基対の大規模データについて、stacksやbowtie2などのソフトウェアを用いてバイオインフォマティクス解析を行い、ゲノムワイドに約10万ヶ所の1塩基多型情報を得ることができた。現在は、2014度の3つ目の目的である、地域的な局所適応に関与している適応遺伝子の検出方法を検討中である。また本研究のアプローチを含む総合的な生物地理学的内容について総説をまとめ、日本生態学会誌で発表した(岩崎ほか 2014)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初に設定していた2014年度の3つの目的(分布域全体からの網羅的なサンプリング、次世代シークエンサーによるゲノムワイドな遺伝的変異の探索、その変異情報に基づいての適応遺伝子の探索)のうち、3つめを完全に達成することまではできなかった。しかし、1つめと2つめの目的に関しては、最初の計画よりも多数の地点・数のサンプルを解析できており、ゲノムワイドに得られた一塩基多型の情報もかなり多い。従って、計画を少し変更した形ではあるものの、研究全体の中の分量としては予定通りに進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度はまず、2014年度の3つめの目標であった、地域的な局所適応に係わる適応遺伝子の検出に取り組む。その際、2014年度でわずかに残ったサンプリングの不十分な地域(石川県~岐阜県付近、島根県~山口県付近)では、追加のサンプリングも行う。それらも加えてゲノムワイドな一塩基多型情報を検出し、その中から集団遺伝学的解析を行うことで非中立な挙動を示す変異を探索する。その後、コンロンソウのトランスクリプトーム情報や近縁種のシロイヌナズナの遺伝子情報を用いることで、それら非中立な変異の近傍にある遺伝子(適応遺伝子の候補)のリストを抽出する。まずは、ここまでの成果を論文にまとめる(2015年度中)。 次に、得られた候補遺伝子の中で、野外環境における適応に強く関係していそうなものについては、タンパク質構造変化の有無や、シロイヌナズナへの遺伝子導入で表現型に違いが出るかなどについて調べる(2016年度まで継続して行う)。また、局所適応に関わる可能性が高い花成関連遺伝子や低温耐性関連遺伝子などについては、ゲノムワイドなアプローチとは別で塩基配列解読を行い、集団遺伝学的な解析によって、局所適応の証拠がみられるかを調べる(2016年度まで継続して行う)。これらの解析についても、結果が得られ次第、論文にまとめる。 2016年度は主に、適応候補遺伝子の野外での分布情報などを用い、生態ニッチモデリングや群集生態学的なアプローチを活用することで、野外における地域的な局所適応パターンの推定に取り組む予定である。また、気候変動下においてそのパターンがどう変化するかについても推定を行い、全体の結果を論文にまとめる。
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Research Products
(5 results)