2015 Fiscal Year Annual Research Report
網羅的ゲノム解析による地域適応メカニズムの解明:適応の分布変遷復元と未来予測
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14J00456
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩崎 貴也 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 局所適応 / RAD-Seq / 系統地理 / 適応遺伝子 / 地理情報システム / 生態ニッチモデリング / 地球温暖化 / アブラナ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、アブラナ科の草本コンロンソウを対象とし、東アジア全体の多地点サンプルについてのゲノムワイドな変異情報を用いることで、地域的な局所適応に関わると思われる適応遺伝子を探索、そしてそれらの適応遺伝子が担っている局所適応のパターンを地図で予測することを目的としていた。 RAD-Seq解析によって得たゲノムワイドな変異8,308 SNPs(200地点369個体)について、それらの個体が分布していた環境情報(季節・年ごとの平均気温・降水量など)を地理情報システムで抽出した。更に、各SNPの頻度情報と環境要因の間の相関関係を解析(ゲノムワイド関連解析)し、中立な変異のパターンから有意に外れて、特殊な環境(低温や高標高など)にのみ分布するようなSNPを探索した。解析の結果、例えば年平均気温では95 SNPsが非中立SNPsとして検出できた。更に、これらのSNPs周辺に存在する機能遺伝子を探索したところ、例えば年平均気温の95 SNPsの周辺には225の機能遺伝子が含まれていることが分かった。検出された機能遺伝子の中には、転写因子や病原菌耐性遺伝子など、何らかの局所適応に関わる可能性が考えられる機能を持つようなものも多く含まれていた。 更に、検出された非中立SNPsについて、自然界での分布情報とその場所の環境情報を元に生態ニッチモデリングを行い、それぞれの非中立SNPの分布を予測する分布適地モデルを作成した。モデリングの結果、年平均気温によって検出された95の非中立SNPsの場合、①サハリン中部~極東ロシア、②中国北東部~韓国中部、③サハリン南部~日本~韓国南部、という3地域間で大きく組成が変化する(≒局所適応のパターンが変化する)ことが予測された。このような局所適応のパターンは、地球温暖化などの環境変動が生物に与える影響を推定する際に合わせて考慮することで、より正確な影響評価が可能になることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、目的として挙げていたゲノムワイドなSNP情報からの非中立SNPsの検出、その周辺の適応遺伝子候補のリストアップ、更には検出した非中立SNPsの分布パターンに基づく局所適応の地理的パターンの予測を地図の形で行うことまでができた。ただし、当初想定していたより検出された適応遺伝子候補の数が多く、機能情報から局所適応に関係しそうな遺伝子は多く含まれているものの、更なる絞り込みが必要と思われる。またうまくデータが得られていないサンプルも一定数みられたため、小規模なRAD-Seq解析の追加も必要と思われる。非中立SNPs群集を対象とした分布モデリングの方法など、新たな解析の手法は確立することができたため、後者については小規模の実験ですぐに終えることができる。 東アジアに分布する非モデル生物における地域適応の研究で、適応遺伝子候補の検出と、それに基づく局所適応の地理的パターン予測までを行ったのは初であり、この地域における適応進化を考える上で重要なモデルケースとなり得ると考えている。従って、今後の計画で少し修正は必要なものの、研究全体の中の分量としてはおおむね予定通りに進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画を少し変更し、うまくデータが得られなかったサンプルについてのRAD-Seq解析の追加と、更なる適応遺伝子候補の絞り込みのための全ゲノムリシーケンスを行う。既にDNAサンプルはあるため、前者はすぐに追加の実験と解析を行うことができる。後者は、昨年度までに推定することができた局所適応の地理的パターンを元に、適応が大きく異なることが予測された複数地域について少数の代表サンプルを選び出し、それらについてリシーケンスを行う。これによって、既に得られていた適応遺伝子の候補の中から、地域間で最も遺伝的分化が大きい(強い自然選択を受けている可能性が高い)機能遺伝子がどれかを特定する。特定できた機能遺伝子については、その変異情報を元にタンパク質構造変化の有無や、シロイヌナズナへの遺伝子導入で表現型に違いが出るかなどについても調べる。 その後、当初の計画通りに、氷期・間氷期といった過去、地球温暖化した未来の気候モデルについて、東アジアスケールでの整備を行う。更に、検出した非中立SNPの分布情報を元に、作成した地域適応の予測モデル(=適応遺伝子の分布適地モデル)を、それらの整備した気候モデルに投影することで、地域適応の歴史的変化(=適応進化の歴史)について推定を行う。
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] A genome scan for genes underlying microgeographic-scale local adaptation in a wild Arabidopsis species2015
Author(s)
Shosei Kubota, Takaya Iwasaki, Kousuke Hanada, Atsushi J. Nagano, Asao Fujiyama, Atsushi Toyoda, Sumio Sugano, Yutaka Suzuki, Kouki Hikosaka, Motomi Ito, Shin-Ichi Morinaga
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Journal Title
PLOS Genetics
Volume: e1005361
Pages: e1005361
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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