2014 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期地中海世界とシチリア史-シャルル・ダンジューの政策を中心に-
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14J00601
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高橋 謙公 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | シチリア王国 / シャルル・ダンジュー / 地中海 / 港湾管理 / ジェノヴァ / チュニス |
Outline of Annual Research Achievements |
シチリア王国が地中海世界各地への影響力を獲得した13世紀後半のシチリア王シャルル・ダンジュー治下において、海は単なる航路としての道ではなく、政治的な空間として重要視されたと考えられる。とりわけ1270年代はシャルルの地中海政策によって、各地での外交(戦争や同盟国の援助等)が激化した時代でもある。アンジュー朝期に関しては、ナポリのAccademia Pontanianaを中心に1950年から今日にかけて『アンジュー朝文書局発給史料目録(I Registri della Cancelleria Angioina)』が整理されてきた成果がある。その成果を利用しながら、シャルルがピサ、ジェノヴァ、ヴェネチア、マルセイユといった各地の商人に対し「諸特権(privilegia)」の付与剥奪を利用して行う外交を確認することができる。また2014年、地中海政治上の航路支配のために島嶼や港の支配を重要視するイギリスのD. AbulafiaやフランスのD. Valèrianら地中海史家の成果によりつつ、当該時代における海港都市国家ジェノヴァとの戦争期(1272-1276)及びその前後の時期において、シャルルの港湾行政を検討した。その結果、アンジュー朝の王国行政史で語られてきた港湾行政がより明確になるとともに、文書言説の中に王権が地上の領地に加え、海上空間を含めた防衛を指示する言説が見出された。こうした海への影響力の行使は、海の利用者側の年代記記述にもあらわれ、『ジェノヴァ人年代記(Annales Ianuenses)』は1272年12月に港湾封鎖を受けたことを一つの「危機」として描いている。これらの言説の背景に、13世紀第三四半世紀の地中海商業や港施設の発展に伴い、地政学上の有利を利用した政策が、シチリア王によって実施され、港湾行政が整備されていったことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における現状の達成度はおおむね順調に進展している。というのも、第一に、ナポリ国立古文書館とナポリのAccademia Pontanianaを中心にして行われた史料集成『アンジュー朝文書局発給史料目録(I Registri della Cancelleria Angioina)』を収集することができたからである。当史料はアンジュー朝行政文書における最重要史料であり、戦時散逸してしまった背景はあるものの、ナポリ大学を中心とする先達の並々ならぬ努力の賜物であるとともに、アンジュー朝研究の進展に大きく寄与するものである。現在新規購入が不可能といわれている当史料を収集することによって、行政史からのアプローチを可能とした。 そして第二に、研究会報告を通して、新たな視点を得られたからである。本研究の主要テーマはフロンティア・スタディであるが、海を一つの空間として認識することは、数度の研究会報告を通して難儀であることが指摘され、私自身幾度も確認を迫られた。しかし上記史料から行政史上のアプローチが可能となり、港湾行政への視座を得たことは、聖地国家やイベリア半島における「境域」以外に、13世紀地中海世界のフロンティアとしてシチリア王国とチュニス・ハフス朝間の海の「境域」を検討する機会を与えてくれた。 そして最後に、これらに加え、今後の方策に関しても前年度2度にわたる現地史料調査を通して、中世の港湾管理官に関する史料がパレルモ国立古文書館に所蔵されていることも突き止めている。さらに史料に関して、チュニス・ハフス朝を包括して考察する際に必要な和平協定文書も手元に置いてある。行政史及び政治史の観点から複合的にこれらの史料を用いることで今後飛躍的に発展させることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の計画段階では、主に外交史と地域史の観点から、シチリア王国とチュニス・ハフス朝間の海の「境域」を巡る問題に着手しようと計画していた。しかし数度の研究会報告を通して、それらのみから実証的な検討を加えることは困難であることが指摘された。海を扱う上で、海上空間への認識を問うことから土台を積み重ねる必要があり、前年度において、行政史の、とりわけ港湾管理の視座からそれを実行した。 本研究は主要な時代設定を13世紀後半に設定しているが、当該時代をより明確に示すべく、それ以後の時代をも視野に入れ、比較することが効果的であることを見て取った。行政史の観点や時代比較の視点から、本年度はこれまで用いてきた『アンジュー朝文書局発給史料目録(I registry della Cancelleria Angioina)』に加え、パレルモ古文書館に眠る『アラゴン王文書局発給史料目録(I Registri della Cancelleria Aragona)』、港湾管理に関わる文書(Tribunale Real Patrimonio及びVice Portulano di Termini)や諸協定文書、旅行記を中心に分析を進めることとする。これらの史料の多くは、本研究対象がこれまで日本で行われてこなかったことからも、日本で閲覧できることは稀であり、現地史料調査を要することが明らかである。しかし上記史料の所在は確認済みであり、今年度の史料調査の主要対象となるだろう。
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Research Products
(4 results)