2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J00654
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
石川 久美子 武蔵大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 古代歌謡 / 古事記 / 歴史 / 伝承 / 物語 / 歌と歴史 / 与那国 / マチリ(カンブナガ) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、『古事記』という歴史書に収録された、伝承されている古代歌謡がどのような「歴史」を語っているのか、その内実を明らかにすることにある。 本目的を遂行するには、歌の役割や伝承等の考察が必要になる。それゆえ、社会を支える祭祀のなかに伝承されてきた歌謡をもつ沖縄の村々を調査し、それらを考察する契機とする。
本年度の研究実績の柱は次の五点にあり、27年度の研究を進める上で意義のある成果を得ることができた。 ①古代歌謡の研究史、神話学の研究史を整理し、本研究の方法、立場をより明確にした。その成果の一部を、執筆の機会を与えられた「歌の多層な読み―心の表現としての歌とその歌の語るリアルな歴史を求めて―」(『相聞』54号)、「歴史の〈真実〉―『歌の語る歴史』はなぜ可能か―」(『相聞』55号)に発表した。その他の成果(研究史の整理等)は博士論文に収録する。②「古代歌謡が語る歴史」というテーマ実践としては、11首の歌謡を記載する応神天皇条を取り上げ、歌謡から、応神の時代に交通網が整えられ文物や人の渡来が活発になったという「歴史」を導いた。それが「古代歌謡が語る応神の時代―交通網の整備と文物の渡来―」(古橋信孝、居駒永幸編『古代歌謡とはなにか』笠間書院、2015年)である。③「『時人』研究史」(同書所収)を発表した。「今後の研究の推進方策③」に繋がる成果である。④古事記学会(9月、学習院女子大学)において、歌謡から物語がいかに生成されたかを「物語の生成―妻争いと反乱―」というタイトルで口頭発表した。⑤沖縄八重山の与那国島のマチリ(カンブナガ)という伝統祭祀の現地調査を行った。島の共同体、集落の共同体、旧家の三つが、かみ合って祭りを構成していることがわかり、伝承の複雑さが見えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一時的な怪我により、計画通りの研究実施や調査出張ができなかった。しかし研究史を整理し、本研究の立ち位置や方法を明確にすることができたことに大きな意義があった。来年度は本年度の蓄積をもとに、博士論文に直接的に繋がる成果を出していく。具体的には古代文学会、日本文学協会に論文を投稿し、他はすべて博士論文に収録する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下三点を中心に進める。
①『古事記』の歌謡が語る「歴史」を検証すること。→上記研究内容の①では、13首の古代歌謡を収録する神武天皇条、そして四場面に歌謡の記載をする神代の時代を考察する。「神代記」は、散文による場面が圧倒的に多い。これは歌謡が「歴史」を語るとする本研究の視点からは矛盾する事実である。それゆえ、「神代記」の分析を通じて歌謡の代わりに何が「歴史」を語るのかを検証する。②『古事記』でも、歌謡の記載されない時代の位置づけを明確にすること。→歌謡の収録されていない時代の位置づけを、垂仁天皇条を対象に行っていく。「垂仁記」は、10首以上の歌を収録する時代と同じくらい散文による歴史叙述の量が多いが、歌謡は一首も見られない。それが『古事記』歴史叙述にとって何を意味するのか、「神代記」で得られた成果を踏まえて考察する。③上記の研究の延長として『古事記』と『日本書紀』の歴史叙述の違いを明らかにすること。→共通の歌謡に着目し、『古事記』と『日本書紀』の歴史叙述の違いを考察する。例えば、『古事記』のヤマトタケルの歌謡(景行天皇条)は、『日本書紀』では「時人」の詠(崇神天皇条)として位置づけられている。「時人」は『日本書紀』にしか登場しないが、この「時人」はむしろ語り手に近い伝承者としての性格をもつ。『古事記』はなぜこのような存在をその叙述の中に置くことをしなかったのか。本年度の成果である「『時人』研究史」(『古代歌謡とはなにか』所収)を踏まえ、「時人」の意味を考えるところから、二書の歴史叙述の違いを追う。
なお①~③と同時進行的に、沖縄の村々において歌がどのように伝承され、機能しているか、伝承がどのように村を支えているか等を調査し、その観点を合わせ「古代歌謡が語る歴史」を考察する。
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Research Products
(5 results)