2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J00689
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野田 穣 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 原子間力顕微鏡 / 元素識別 / シリコン / ゲルマニウム / 二酸化チタン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、原子間力顕微鏡(AFM)による力学的な元素識別法の基礎的検証をSiとGeを用いて行った。また、応用的検証の予備実験として、高い光触媒活性が期待されているTiO2(011)表面をAFMと走査トンネル顕微鏡(STM)によって同時観察した。
1. まず基礎的検証に関して、GeはSiと同じIV族半導体元素でありこれらの電気陰性度は似通っていることから従来の元素識別法をそのまま適用できる。しかし、GeとSiは結合長や結合エネルギーなどが非常に似ていることからAFMによる識別は大変困難であることが予想された。Ge/Si(111)-(7×7)混在表面をモデル系として実験を行った結果、これら化学的に似た元素を識別するためには化学活性度の高いAFM探針が必要であることが分かり、Ge上に働く最大化学結合力はSi上における値の84%となることを見出した。また、本手法を濡れ層であるGe(5×5)上に応用した結果、最表面のGe層の中に微量のSi原子が存在することが明らかとなった。今後、AFMによるSiとGe原子の識別法は産業上重要なナノスケールのSiGe材料へ応用されていくことを期待する。
2. 元素識別法の応用的検証を行うため、TiO2(011)表面を予備的に調査した。最表面の構造に関しては、最上層の酸素原子がジグザグ列状に(2×1)周期で並んだ“回折モデル”が尤もらしいとされている。本研究ではAFM/STM同時観察によって、表面構造と電子状態の関係を実験的に明らかにすることを目的とした。しかし、同視野AFM/STM像を詳しく調べた結果、AFMで観測されている輝点はSTMのものと同一であることが分かった。このような結果の解釈には探針先端の構造や原子種の影響を取り入れた理論計算が必要となる。今後は表面の化学結合力を3Dマッピングにより分析しAFMの画像化機構を解明していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は元素識別法の基礎的検証のために、Si(111)表面にNOガス吸着やAl蒸着を行い表面に形成した局所化合物を用いて化学結合力測定を進めていく予定であった。これらに関する実験はほぼ完了しており、現在は理論計算を進めている。本年度はこれらの研究と並行してSiと同程度の電気陰性度を持つGe原子を最大化学結合力により識別するための条件も詳しく調べた。その結果、探針の化学活性度が低い場合はSiとGe原子上の最大化学結合力の差は実験的ノイズに埋もれてしまうため識別できないことが判明した。すなわちSiとGeのように化学的性質が似た元素の識別には化学活性度が高い探針が必要であることが分かった。また、本年度予定していた表面超構造上での検証は、Si(111)上に濡れ層として形成したGe(5×5)アイランドを用いて行った。その結果、Ge(5×5)上においてもSiとGe原子の識別は可能であることが分かり、元素識別法は様々なナノマテリアルにも応用できる可能性が示唆された。
応用的検証のためTiO2表面上の化学反応を試みる予定であったが、TiO2(011)表面はそもそもAFMによってどのように画像化されるかは詳しく知られていなかったため、我々はまずAFM/STM同時観察を行い過去に報告されている構造モデルとの比較を行った。しかし、TiO2(110)表面とは異なり、TiO2(011)表面上ではAFM像のコントラストは探針先端の極性に依拠した単純なモデルでは説明できないことが判明した。今後はより詳細な実験・理論的検討が必要である。
以上の結果において、SiとGeの識別と、TiO2(011)-(2×1)表面のAFM/STM同時観察に関しては論文にまとめることができた。それ以外の研究に関しては実験・理論による更なる検討と論文執筆を現在進めている。よって、おおむね順調に進展しているという自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、原子間力顕微鏡による元素識別法はGe、Al、O原子に対して有効であり、O2やNOガスによって生成した酸化物や酸窒化物上のSi原子に対しても適用できる可能性が実験的に示された。今後はAlナノクラスターなどのナノマテリアル上でも元素識別が可能かを検証していく。また、第一原理計算によるアプローチから本手法の妥当性も調査していき、化学結合力の共有性とイオン性の分離による適用範囲の広い元素識別法の確立を目指す。
また、上記の基礎的検証はSi表面に限られているため、引き続き応用的検証のためにTiO2(011)を用いた個々の原子の元素識別にも挑戦していく。そのためにまずはTiO2(011)表面とAFM探針の間の相互作用がどのように起きているか知る必要があるため、AFM/STMを用いた3Dマッピングや第一原理計算による研究も行っていく。
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Research Products
(19 results)