2014 Fiscal Year Annual Research Report
コウモリの生物ソナーによる空間スキャンに基づいた実環境下センシングシステムの検討
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14J00737
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
山田 恭史 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 注視戦略 / 複数障害物検知 / 自律走行車 / アクティブソナー / コウモリ / 経路選択アルゴリズム / ナビゲーション / 空間マッピング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な成果として,①コウモリのセンシング戦略を搭載する装置(自律センシング走行車)の確立,②走行車を用いた初歩的なコウモリの空間スキャニング戦略の実験的評価・検討,③コウモリが空間マッピングを構築しながら障害物回避飛行を行っている可能性について動物実験による検証が挙げられる.これら工学装置を用いた手法と動物実験を用いた手法の両方を相互に検討しながらの研究遂行は本研究計画の中核であることから,受入研究者の研究は計画通りの進展状況であるといえる. 特に,自律走行車を用いた検証実験では,障害物の存在する方向へセンシング方向(音による視線)を傾ける“障害物注視システム”と,複数検知した障害物群の位置情報から安全なスペースへ走行経路を選択する“複数障害物群の検知による移動経路選択システム”の有用性についてそれぞれ評価を行った.これらは,障害物回避飛行するコウモリのパルス放射方向・経路選択の挙動について分析を行った結果を反映させている. さらに,数理学的な分析により,コウモリの経路選択アルゴリズムを解明するための基盤となる数理モデルを構築し,ソナーを用いた自律走行システムの中で機能することが確認できた.今後は,コウモリのパルス放射方向の選択アルゴリズムを数学的に記述し,今回作成した経路選択アルゴリズムと協調させることで,コウモリのナビゲーションをモデル化し,その効果について解明したい. これらの研究遂行により,本年度中に得られた成果について2件の学会発表を行った.特に,聴覚系の国際学会での口頭発表においては,これまでにないバイオミメティクスに根差したユニークな研究アプローチに,一定の評価を得られることができた.またそれ以外にも,受入研究者の自律センシング走行車のデモ見学に来訪される企業の方も複数存在し,本研究遂行により期待される成果が社会から注目を集めていることも再認識できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
工学装置を用いた手法と動物実験を用いた手法の両方を相互に検討しながらの研究遂行は本研究計画の中核であることから,受入研究者の研究は計画通りの進展状況であるといえる. 特に,コウモリや,その他視覚動物でも指摘されている,視線方向を制御する空間スキャニング戦略は,生体に広く共通する最も基本的な戦術の一つとして知られている.工学装置を用いた検証実験においても,音の視線方向を障害物へ向けることでオブジェクトの定位が安定し,その結果,回避性能が向上することを示せた.このことは,今後,視線制御に基づいたナビゲーションについて検討し,研究展開させていく上でも,重要な知見が手に入れられたと考えている.また,ナビゲーションシステムを構築する上で,基盤となる経路選択モデルを構築し,ソナーを用いた実環境下でも機能するシステムとして検証できたことも,当初の目的を達成する上で重要な成果であると考えられる.これらのことから,コウモリの合理的な空間スキャニングに基づいたセンシング方向・移動方向制御アルゴリズムの検討については着実に研究遂行できていると考えている. 一方で,視線方向・移動経路選択方向の制御以外では,パルス放射タイミングについて検討したのみである.いまだ,コウモリのパルス音響特性制御メカニズムに迫る,効果的な検証実験は行えていない.これらは,①センサの特性により,送信出来るパルスに制限を受ける,②効果を期待できるような,エコーからの信号処理システムが組まれていないといった問題が挙げられる.これら課題については,コウモリの音響制御のふるまいから推測されるアイデアについて,より一層深く考察し,工学的に実装可能なアイデアとして構想を練り上げていく必要があると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,前述した研究の目的を達成するために,自作した走行車とコウモリの空間スキャニングの振る舞いの差異について,より詳細な比較検証を行っていきたい.具体的には,①これまでに検証してきた“障害物に注視するセンシング”と“複数検知した障害物群の位置情報から移動方向を選択するシステム”を協調させたシステムをコウモリのふるまいの分析から検討する.さらに,②視線を時分割的に障害物の方向へ向けるシステムを構築する.実際のコウモリでは,進路前方に現れた障害物群に対して時分割的にパルス放射方向を向けるような空間スキャニングを行っている.つまり,コウモリは複数受信したエコー群の中から次に注目するエコーを選択し,パルス放射方向の切り替えを行っていることが考えられる.今後は,コウモリの前方に広がるオブジェクト群に対し,パルス放射方向を向ける順番や,規則性について分析し,時分割的に注意を払う対象物を切り替えるセンシングシステムを実現したい. さらに,これまで効果的な検証実験を行えていなかったコウモリのパルス音響特性制御メカニズムについても検討する.まずは,パルス放射タイミングについて検討する.①パルス放射頻度を変化させることで,障害物回避性能がどのように変わるのか,②コウモリに見られる,注意を払う対象物との距離に応じてパルス放射頻度を変化させる戦略が,センシングする上で最適な解になっているのかについて検証する.これと並行して,パルスの音圧や周波数を変化させるコウモリの戦略についてより一層深く考察し,工学的に実装・検証可能なアイデアとして構想を練り上げていく. 最終的には,これまでに検証してきた空間スキャニングシステムを協調させたシステムを構築する.音による視線やタイミング・音の特性を合理的に制御させるシステムが,障害物回避ナビゲーションに与える効果について,総合評価を下したい.
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Research Products
(2 results)