2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J00780
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柳沢 菜々 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 家産 / 天皇家 / 勅旨田 / 調 / 塩 / 御食国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、八~九世紀において天皇の活動を支える経済的基盤となっていた所領のうち、「勅旨田」について検討したほか、律令税制によって収取される物品について「塩」を題材として考察をおこなった。 まず、八世紀に開発の史料が残る勅旨田について、①開発がおこなわれた国では、紫微中台官人の国司兼任が顕著であること、②開発地は近江・美濃の東山道沿いに分布し、藤原家の封戸、中宮湯沐の設定地に隣接する可能性があること、③これらの開発は、国衙機構を利用した天皇家による家産所領の開発と考えられることを指摘し、律令的な官司機構と天皇家の家産管理機構が明確に分離していない点を当該期の特徴と結論づけた。 また、八世紀における塩の生産および都城での消費について、主に「若狭の塩」を中心に従来の説の再検討をおこなった。調として大量に貢納されていたとみられる若狭の塩は、これまで特別な塩として注目されており、『日本書紀』にみえる角鹿の塩伝承と結びつけて考えられてきた。だが、氏族分布等の分析による限り、若狭地域と角鹿地域では中心勢力が異なり、それぞれの貢納も別々の由来をもつものとみるべきである。なお、若狭は膳氏と関係が深く、贄や特別な塩を貢納していることから、これまで「御食国」と認識されてきた。この「御食国」の認識について、贄や天皇の食膳と結びつけるのではなく、調として貢納する品に特別な意味を持たされている地域、具体的には祭祀における主要神饌の貢納を意識づけられている地域をさすものであることを指摘した。 そのほか、①海獣に関係する古代史料の網羅的集成、②西山1号窯(京都府亀岡市・篠窯跡群)の発掘調査への参加、③隠岐の古代遺跡フィールドワークおよび出土遺物の実見調査をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料収集の進捗状況をもとに、「研究実施計画」に記載した研究内容の着手順を適宜入れ替えて取り組んだ。成果はそれぞれ口頭報告による発表をおこない、おおむね良好な評価をえたが、討論をふまえて自説の再検討をおこなった結果、論考化が遅れたため、年度内に論考として学術雑誌に掲載するには至らなかった。 なお、当初の研究計画にはなかったテーマに取り組むこととなり、①班田制について、②戦後歴史学(古代史分野の業績)の史学史的検討、③古代における捕鯨について、それぞれ①書評、②大阪歴史科学協議会例会での部会共同報告、③海洋考古学会での報告をおこなった。これらの作業によって、本研究課題の推進にも重要な示唆を得ることができ、資料分析の新たな着眼点の発見につながった。 また今年度は、本研究課題の遂行に際して目標としていた、海外への研究成果の発信について、南カリフォルニア大学での発表の機会を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、昨年度に論考化できなかった研究課題について、論考執筆をおこない、学術雑誌への掲載を目指す。 また、昨年度の研究活動を通じて、家産の実態を明らかにするためには、所領に関する分析にとどまらず、労働力の編成、人々の把握方法についても検討する必要を強く感じた。そこで今後は、天皇家の家産運営に関する人的資源に着目し、所領が存在する現地での労働力編成のあり方と、国衙を中心とした律令的な民衆支配との関係に留意しながら史料を整理していく。その際、特に天皇家や貴族層・寺社の所領が錯綜すると思われる畿内地域について、律令制成立期の七~八世紀における集落遺跡の動態を分析材料として取り入れたいと考える。さらに、水面を中心的な用益地として構成される所領の存在もあわせて検討をおこない、田制を中心とた土地制度研究とは違った視点からの所見を提示することを目指す。 なお、研究成果の海外発信については、今年度も機会をとらえて実施していく予定である。
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Research Products
(7 results)